うっかり入力内容が消えてしまったので書き直して投稿しちゃうよ!!!なんと!!!今回は初の試みとなる二つのお題を同時に盛り込んだ投稿だよ!!!これぞ一度に二度美味しい!!!
「優しくしないで」&「二人だけの秘密」(5/2、5/3)
私はなんの取り柄もない、ただの少女。
でも、昨日こんな私にも恋人ができた。
告白したのは私ではなく、彼の方だった。
はじめはとても驚いたけれど、「好きです」という言葉を噛み締める度にとても嬉しくなった。
私を好いてくれる人がいるなんて。
こんな素敵な人が私を好きだなんて。
いまだに信じられない。
ほっぺたをつねってみる。痛い。これは夢じゃないんだ!
そう思うと、ますます恋人ができた実感が湧いてドキドキしてしまった。
明日から、もっとおめかししようかな……?
次の日。いつもより早起きして、いつもはつけない赤のリボンで髪を結ぶ。……ちょっとはいい感じ、かな?
それから、彼のためにお弁当を作る。
そういえば、まだ好きな食べ物の話はしていない。
何が好きか、お話しないと。
何を作るか迷ったので、色んなものを挟んだサンドイッチを作ることにした。たまごにハムとレタス、それからいちごとホイップクリーム。色とりどりで可愛くできた。
……学校ではどんなふうに話しかけたらいいんだろう。
というかそもそもあまり接点がなかったのに、どうして彼は私が好きになったんだろう。
あんまり考えたって仕方ないよね。
身支度を整えて家を出る。隣の家の幼馴染は……まだ外にいない。いつもと同じで寝坊しているのかも。
玄関のチャイムを押す。彼女のお母さんが出てきた。
「おはよう、ごめんね〜あの子まだ寝てて……ほら、早く起きなさい!!」
その声を聞くや否や、階段を駆け降りる音が聞こえた。
「おはよう〜!もうちょっとで支度終わるから待ってて!」
黒髪のショートヘアがよく似合う、元気な女の子。
私はよく、彼女に救われてきた。……思い出したくもない、あの日も。
告白を受けて以来、私は彼に幸せだと思ってもらえるように尽くしてきた。
彼が会いたいと言えば夜の帷の中でも、欲しいと言えば無理矢理手を伸ばしてでも、希望を叶えてきた。
だってそれが、私の一番の幸せだったから。
「付き合っていることはみんなにも内緒にしといてくれ」
「お前、この俺が付き合ってやってんのに何でこうもろくでなしなんだよ」
何も言わずに殴られても、彼が満たされるなら、それでいい。
だってそれが、私の一番の「幸せ」だったから。
幸せ。仕合せ。しあわせ。シアワセ。
大丈夫。まだ大丈夫。
たまに見せてくれる優しさがあれば、それでいい。
でも、もしずっと優しくしてくれていたのなら、逆にずっと優しくしないでくれていたのなら、こんなに苦しまずに済むのに。
99%の罵倒と1%の愛情さえあれば、私は生きていける。そう思っていた。思っていたのに。
ある日私は見てしまった。
あの彼が、別の制服を着た明るい女の子と笑いながら歓楽街に入っていくところを。
きっと気のせい。そう言い聞かせた。
けれど、何度も何度も何度も何度も何度も、何度も彼女と彼が一緒にいるのを見た。
そしてやっと気づいた。
彼にとって、私は都合のいいカモでしかなかったのだと。恋人などではなかったのだと。
どうして。どうしてどうしてどうしてどうして?
どうして私を大切にしてくれないの?
どうして私の、小さくて狭くて暗い世界を、居場所を壊すの?
どうして、私に優しくしたの?
もう優しくしないで。
もう希望を持たせないで。
もうこれ以上、心を壊さないで。
お願い。おねがいだから。
その時の私はもうとっくに限界だった。
知らないうちに、窓辺に足をかけていた。
もう、終わりにしよう。
身体を重力に任せようとした時、電話が鳴った。
こんな時に一体誰が?
画面を見ると、幼馴染の名前が表示されていた。
「……はい。」
『ちょっとアンタ!なんてことしようとしてんのよ!!』
電話を通さなくても聞こえるほどの大声で言った。
「なんの話……?」
『とぼけてたって無駄よ!!アンタ……飛び降りようとしてた、でしょ……?!こっちからも見えてるんだから!!』
泣きそうな声で言われて気付いた。
あぁ、そうだった。私には彼しかいない、なんてことはない。もっと身近な人たちを、大切にしないと。
「……ごめんなさい。」
『アタシに謝ってどーすんのよ!!アタシより先に家族に謝ったらどう?!』
辛い。つらい。ツライ。ごめんなさい。
勝手に涙が出て止まらない。どうして、どうして?
『……何かあったみたい、ってことしか分かんないわ。とにかく、話してみなさいよ!』
促されるままに、私は今までの経緯を話した。
『へぇ……アンタ、今までそんな素振りすら見せてなかったわよね?ずっと一緒の幼馴染に隠し事なんて、随分と大胆不敵なことするじゃない!』
『それはそうと、もっと詳しい話を聞きたいから、明日うちに上がっていかない?こーゆー時こそ、アタシの出番だよ!』
なんだか嬉しそう。つられて私も気分が明るくなる。
相談してみてよかった。
安心したのか、いつの間にやら眠ってしまった。
翌日。あっという間に放課後が来て、私たちは一直線に彼女の家へと向かった。
……久しぶりだなぁ。彼女の部屋に上がるのは。何年振りだろう?
「なによ!アンタのために片付けたんだから、キレイになってるに決まってるでしょ!」彼女は自慢げに言う。
「おじゃまします。」
彼女の部屋には沢山の参考書やスポーツ選手のポスターがあった。彼女らしさで溢れていて、同じような部屋に住んでいるはずなのにすごく羨ましかった。
「にしてもアンタ、酷い目に遭ったわね!」
オレンジジュースをテーブルに置きながら話を始める。
私はなにも言えずにいた。
「というか、アンタはアイツのこと、知らなかったのね?あの男はアタシでも知ってるくらいサイテーで有名なヤツよ!恋愛慣れしてなさそうな女子を狙っては無理矢理言うこと聞かせてコントロールする、って!」
「そうなの……?」
「そうよ!それに、本命は別の学校にいるっていうのも有名よ。ついでに言えば、その子も彼に似たようなことをしてるらしいわ。……全く、似たもの同士ね!」
「だからアタシ考えたの!」
「何を?」
「あの男を懲らしめる方法よ!」
「懲らしめる……方法?」
「そう!ああいうヤツほど、やり返してこないと高を括っているから、いっぺん脅しておかないと!これ以上調子に乗らせないためにも、ね?」
「なるほど。私が頑張れば、もしかしたら傷つく他の女の子が減るかもしれない、ってことだよね?」
「そうよ!」
「でも、この計画の言い出しっぺはアタシだから、しっかりと協力させてもらうわよ!」
そう言いながら、彼女はノートをテーブルに広げた。
「……これ、ほんとにやるの……?」「ダメかしら?」
「いや、ここで頑張らないと!」「その意気よ!」
ノートにはこのような内容が書かれていた。
日時:未定 服装:全身黒に近い色、歩きやすい靴、フードを目深に被る
持ち物:「フェイクの」刃物←ココ重要!!
①夜の繁華街から出てきたターゲットを確保
②無言で山中まで歩かせる
※逃げようとしたら全力で脛を蹴飛ばす→実行犯(?)が被害者だけじゃないことを意識させる
③ナイフを突き出し、深くない落とし穴に落とす
④逃走
なるほど……と思ったけれど、本当にうまくいくのかな……?
「うまくいくかどうかは分かんない!けど、やってるうちに何か思いつくかもしれないわよ!」
「そうだよね。せっかく考えてくれたんだから、私も最善を尽くさないと。」
「そんなに気張らなくてもいいわよ!あ、でも……」
「このことは、二人だけの秘密、ね?」
「もちろん、そのつもりだよ。本当に……ありがとう。」
私たちは次の日も、また次の日も話し合いを重ねた。
その結果、実行は毎週土日と祝日、持ち物にロープとアタッシュケースが追加された。彼女曰く「雰囲気作りのため」らしい。
そして、漸く初めて実行に移す時がきた。
しかし、残念ながら今週は「ターゲット」が来ることがなかった。
そのあとの週末も、ずっとこの計画のために時間を作った。
なかなか現れなかったが、16回目の日曜日にその時がやってきた。
彼は例の「本命の彼女」と一緒に夜道を歩いていた。
嬉しそうに、楽しそうに。怒りで手が震える。
その様子を見かねてか、「大丈夫?」と幼馴染は話に聞いた。「ごめんね、大丈夫だよ。」
「あ、通り過ぎられる前にもう行こう!」
彼女に釣られて私も走り出した。
「そこのお前たち、止まれ。」
いつも聞いている話し声とは真逆の、抑揚のない低い声。同じように脅しにきたはずなのに、私まで怖くなってしまった。
「な、何だよお前!!殴られてぇのか?!」
無言でナイフをちらつかせる。
「さっさと歩け。」「は、はいぃ!」
本命の彼女には逃げられてしまったが、別に構わない。おそらくこちらとは面識がない上、フードをしっかり被っているから顔は見られていないはずだ。
暗い山道を歩く。何か出てきそうで怖い。
けれどもここを耐えないと、この先ずっと苦しいままかもしれないんだ。だから耐えないと。
かなり歩いて所で、彼女は止まった。
「座れ。」
「……ここに連れて来られた理由は、わかっているよな?」
「ヒイッ!な、なにも、わかりません!!」
「ふざけるな!!」彼を蹴り倒す。恐ろしいパワーだ。
「そ、そこまでしなくてもいいんじゃ……」
「わ か っ て い る よ な ?」
「ゴッ、ごめんなさい!色んな女の子をカモにしたこと……ですよね?!」
「わかっているんだったらなぜ彼女らに詫びないんだ?!」
彼女は彼の腹にナイフを思い切り突き立てる。
彼の絶叫が聞こえる。着ていたTシャツは赤く染まっていた。
え、なんで、どういうこと?
だってあのナイフは、ニセモノのはずじゃ……。
「痛いでしょう?でも、あなたは沢山の少女を苦しませてきた……。その傷は今も癒えることがないの。だからアタシが、罰を与えないと。」
彼女は無言でロープを彼の身体に巻いてどこかへと引き摺っていく。私もそれについて行った。
「ほら、見える?」
「満月と綺麗な海。最期に美しい景色が見られて良かったじゃない。」
そう言い終えると、彼女は彼の手首にアタッシュケースを巻き付けて崖から落とした。
……これは夢だ。夢に違いない。
だってこんな凄惨なことを彼女がするわけないから!
悪夢よ醒めろ。醒めて!醒めてよ!!
「あ、次はあなたの出番よ。」
呼吸が止まる。今度は何が起こるの?
「わたし、あなたのことがずっとずっと、ずーっと好きだったの。友達としての「好き」じゃなくて、恋する人に対する「好き」よ。これも二人だけの秘密、ね。」
「本当はこんなことをするつもりはなかったけれど、気が変わったの。」
「あなたとわたしで、この終末を飾りましょう。あの満月のように美しく、海のように深い終末を───」
気づいた時にはもう遅かった。抱きしめられながら、初めての口づけを奪われながら、真っ逆さまで海まで落ちていく。
海の冷たさを感じる頃には、私たちは泡沫となって消えた。
大丈夫、あなたはずっと、美しいまま酷い目に遭わずにいられるの。怖がらなくても、大丈夫よ。
だってそれが、私の一番の幸せだから。
5/4/2024, 8:21:11 AM