空棚

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終バスが無くなってしまった。徒歩で約50分。ワイヤレスイヤホンは電池切れで、ぼーっと歩いた。

駅前通りから外れ閑静な住宅街に入ると、家しかなくてつまんないので空を見上げた。意外と星が見える。オリオン座しか分かんないな。冬の大三角ってどれだっけ。明るい順に3つだっけ?じゃあこうか?

いちばん明るい星を見る。思ってるより明るい。
なぜか、掴めそうな気がして、立ち止まって手を伸ばす。人差し指と親指の間に奴が挟まるようにして、ぐっとつまむと、プツッという感触。

取れた。

素早く手前に引き寄せる。人差し指と親指に挟まれた小さい光。

あわててさっきまで星があったところを見上げる。
無い。
冬の大三角は線分になってしまった。

視線を手元に戻す。とんでもないことをしてしまったんじゃないか?光を持ち上げて、慎重にさっきの位置に合わせて、ちょっと待って、手を離す。

光は私の目の前を落下し、チャッと音を立てて転がった。

危ない!

すぐに追いかけた。

しかし光は愉快そうに転がっていって、街灯の光の円に入った途端消えた。

冷や汗が止まらない。祈りながら頭上を見やるがやはり星が足りない。街灯の下で膝を着いてアレを探す。しかし見つからない。

溶けてしまったのだ。
そう思った。

それなら、どうしようもない。自分になんとかできることでもない。かなり冷え込んできた。もう帰ろう。


見慣れた道から、さらに見慣れた道に、上を見ないように早歩きで進むと、家が見えた。家の敷地に入る前に、やはり気になって意を決して夜空を見上げる。

あるじゃん。

がっかりしながら玄関の鍵を開けた。

3/11/2025, 2:56:03 PM