灯火が消えた。部屋に二人、肌を触れ合わせている。
色っぽい雰囲気なら……いやせめて、彼女の髪を撫でて優しい言葉を掛けてやっていたら…どんなに良かったか!
私のしたことは逆だった。彼女を押し倒し馬乗りになって、細い首に手を掛ける。言え、と低い声で圧をかけた。
『何故、他人のために毒なぞ飲んだ。』
周りの目を欺き由緒ある家から出奔しようとした何処ぞの姫の替え玉となり、その死を偽装するために。
毒に耐性があるから意識不明で済んだ。とはいえ耐性を付けるためには、長い時間をかけて毒を体になじませなくてはならない。私だけでなく部下たちも、体調を崩しがちな女に負担をかけないよう、滋養のあるものを食べさせ休養を十分に取らせ気を配ってきた。それなのにその不調が、日頃の服毒の結果だというのは許し難い。
姫様の…と私の下で女が呟く。許嫁は母君と通じていた、父君はそれを知っていて嫁がせようとしていたんだ、と。
不遇……否、それは確かに不幸だろう。
だが、だからといって、なぜ君が。女は表情を消し、淡々と言葉を続ける。
母と疎遠で、父に見捨てられ、恋も知らない
友は離れて行き、ただ生き延びるために、毒に親しむ
そういう少女を救いたかった
かつての自分を、その孤独を救いたかった―――と。
虚ろな目が閉じる。私が暴いた女の秘密、その全て。
……灯火が消えた。
闇の中で軽い体を抱き起こし、そのままその背を掻き抱く。
そうか。もういいよ、何も言わないで。
…ごめんね。いつもの君の屈託ない笑顔が、こんな寂しい覚悟の上に貼り付いていたなんて知らなかった。
腕の中の髪を撫でる。彼女は人形の様に脱力して、抱き返してはくれなかった。どうかもうしないで、と願い縋る心を叱咤する。髪の中から柔らかい耳を探り出し、指で撫でながら唇を寄せた。
【暗がりの中で】
10/28/2023, 1:17:34 PM