「…なるほど、それはとびっきりの素敵な案だね」
そう言って教室の机に頬杖をつきながら彼女はさらりと自慢の黒い長髪を揺らした。
窓から差し込んだ光が彼女の目元を覆い隠し、日光から逃れた口元が悪戯を思いついた子どものように純粋無垢な笑みを口元に浮かべているのが見えた。
頭を抱える。こういうときの彼女は全くと言っていいほど人の話を聞かない。
「はあ…。一応言っておくけど」
「はいはい、わかってるよー」
もちろん、と言いたげに彼女はこちらをあしらう。その仕草を見て嫌な予感がさらに膨らんだ。
「じゃあ、また明日!」
「また明日…」
がたっと机を押しのけ彼女が席を立つ。振り回されることが予想できてうなだれる僕に、彼女がばいばい、と手を振る。それに応えてばいばい、と手を振り返した。最後に、彼女ががたがた、とぼろぼろの扉を力いっぱい閉めようときゅっと眉根を寄せた顔が見えた。
…僕が覚えてるのは、そこまでだ。それから永遠に、彼女は手を振ることはなかったし、二度と扉を閉めることもなかった。…その翌日、彼女は動かないまま川から引き上げられて見つかったのだから。
9/29/2024, 3:57:17 AM