かたいなか

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「380日くらい、このアプリで作品投稿してっけどさ。こういうネガティブなお題、貴重な気がする」
だいたい空ネタとか季節ネタとか、あとラブ&ピースみたいなのが多い気がする。
某所在住物書きはスマホで、杉だのヒノキだのを調べながらポツリ呟いた。
不条理といえば、これではなかろうか。すなわち過去の政策ゆえにザッカザッカと大量に植えられて、林業衰退した後の世の自分達が、花粉で被害を被る。
これぞ不条理である。理不尽である。
ところで鼻うがいというのは花粉症に効くのか。

「……そういや『バカみたい』ってお題もあった」
物書きは再度、ポツリ。
「バカみたいに飛んでくる不条理がバカみたい過ぎて、ガキの頃、黄砂なんだか花粉なんだか理解してない時期があったわ」

――――――

去年の話題である。ブラックに限りなく近い、グレー企業のエピソードである。
1割程度の事実に9割以上の脚色を施した、誰か数人へは起こり得る「不条理」のひとつである。

都内某所、夜の某アパート。
名前を藤森、旧姓を附子山というが、茶香炉焚いた静かな部屋で、ぼっちで職場の後輩のアフターフォローをしていた。
前回投稿分をご覧の方に向けて補足すると、こちらが本物の「旧姓附子山」であるが、
ぶっちゃけ細かいことは、まぁまぁ、気にしない。

グループチャットアプリを通して通話しながら、藤森は明日の仕事準備、後輩は泣いてしゃっくり。
事の元凶は、後輩の書類をチェックして次の決裁に回した、オツボネ係長。
何度も何度も確認したと、後輩は嘆く。
係長にチェックも貰ったし、係長、最後コレで良いって言ったもんと、後輩は訴える。
しかし後輩が任された仕事は、課長決裁で重大ミスが発覚。以前もたしか同じことがと、藤森が気付いたタイミングでは既に遅く。
保守に回ったオツボネ係長は全責任を後輩に回し、後輩ひとりに始末書の提出を命じた。
『アナタの担当でしょ』と。

上が良ければそれでヨシ。
下は使い潰せば宜しい。
これが藤森とその後輩の勤務先の、昔々からの悪しき慣習と体質であった。

おお、社会よ。汝、部下の負う深い深い傷より己の来年度の昇給と給料明細を気にする者よ。
すなわち不条理の別名よ。
なおこの物語の中の「不条理」は、己のミスと不条理がまるっとトップにバレて、係長から平社員に落とされ事実上の左遷を食らいます。
……というスッキリを、当時の彼等はまだ知らない。

「明日。どうするつもりだ」
トントントン。確認用に印刷した紙束の、端をデスクで揃えながら、藤森が尋ねると、
『わかんない』
ぐすぐす鼻をすすりながら、後輩が答える。
『行かなきゃだけど、行きたくないけど、そもそも行ける気がしない』
わかんない。どうしよう。
後輩は2言3言付け足すと、どうやら土砂降りだの集中豪雨だのが来てしまったらしく、通話から少し離れてしまった。

大丈夫だ。気にするな。
無責任な楽観視など、言える筈もなく。
見返してやれ。心を強く持て。
励ましなど、完全に役立たずなのは明白で。
かける言葉をあちこち探し続けた藤森は、最終的に満腹中枢とエンドルフィンで物理的にコンディションを底上げさせようとして、
「今、私のアパートに来れるか」
ケトルの電源を入れ、茶香炉の葉を入れ替えた。
「丁度、魔法の餅を仕入れてある。たまに不思議な子狐が売りに来る不思議な餅でな。食べると、何故か元気になる。どうだ」

『狐って。なにそれ。絵本じゃなし』
突然の申し出に、後輩は少し笑った風であった。
『そっち行く。泣いて、おなか空いたし。甘いの食べたくなってきたし』
お酒も用意しといてよね。
精いっぱいの強がりの後、いくつか言葉を交わして、それから、通話は途切れた。

再度明記するが、これは去年の話題で、過ぎ去ったエピソードである。
約1年経過した現在、作中の藤森はこの頃と別の部署で仕事にはげみ、
後輩は己の趣味に対して格段の理解ある支店長の居る支店へ移され、
その支店には、何故か藤森の旧姓「附子山」を自称する付烏月、ツウキという男が居る。
「不条理」の係長は当時を後悔しながら、下っ端の仕事をせっせと捌き続けておりましたとさ。

3/19/2024, 3:59:35 AM