秋茜

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“夏”

「あっちぃ……」

 あまりの暑さに耐えかねて低く呻けば、パピコの片割れをかじっている隣人がびくりと肩を震わせる。気が弱いやつは声が大きいだけでビビるのだ、という友人の忠告が過ぎる。が、茹だった頭では上手いフォローも思いつかず、無心でパピコにかじりついた。部活終わりの帰り道。

「うまい、コレ」
「お前ほんと、食べるの好きな。確かにうめーけど」

 キョドっていたかと思えば、次の瞬間には、冷たい甘味に顔を綻ばせているのだからよくわからない。オドオドしている割に、マイペースなやつだと思う。

「嫌い?」
「なわけねーよ。夏に食べるのは別格だよな」
「わかる? オレも、スキだ」

 ふふ、と笑う横顔を見て、どうやら今日は上機嫌だ、と気づく。機嫌が悪いところ、は見たことがないけれど。気分が下がっているとき、はわかるようになってきた。そういう日は会話が弾まない。つまり今日はその反対で――上手に話せていると思う。オレたちが。

「はんぶんこ、だから」
「うん?」
「これ。もっと、美味しくなった」

 言葉足らずにもほどがあるだろう、と突っ込むのにはもう飽きた。彼の意図に思考を巡らせて――ワンテンポ遅れて、頬が熱くなる。

「……お前、サラッとそういうこと言うよなあ」
「?」

 小っ恥ずかしいことを言ったくせに何も知らん顔で首を傾げている。あるいは、恥ずかしいと思う自分の方が恥ずかしいのか。

「オレも、うまいよ」

 はんぶんこ、だもんな!
 強調して言ってやっても、嬉しそうに頬を緩めるだけ。勝手に負けた気持ちになって、残りのコーヒー味をガツガツと吸い尽くした。甘さの中の程よい苦味は今のオレの心境に似て。

「いい、食べっぷり」

 にこにことマイペースにアイスを口にする、隣のコイツに、きっと、一生かないっこない。

7/14/2025, 1:40:04 PM