これからも共に
先日、エミール幹部から茶会の招待状を受け取った私は返答をどう返したら良いのか分からなくて、困っていた。受け取った後すぐにヴァシリーに相談した。ヴァシリーは真剣に話を聞いてくれて、その後に「どうにかする」と言って立ち去った。けれど、それから数日間会えていない。
そのせいか、最近は何をする気にもなれない。幸いなことに任務はここ数日入っていない。
自室でぼんやりと過ごしていると扉をノックする音が響いた。扉を開くと、心配そうな顔をするスピカとルカがいた。
「ミル……いつもより顔色悪い」
「朝食、食べてないだろ。だから持ってきたんだ」
そう言ったルカの手には盆にのせられたコーンスープと小さなパンが一つあった。
「これだけでも食べられないか?」
「……ごめん。食欲無い」
「だめ。せめて、スープだけでも飲んで。じゃないとミルが倒れる」
真剣な顔でスピカがそう言ってくる。食の大切さは幾度もヴァシリーから教わった。どれだけ体調が悪くとも、食べれる時に食べておけと。
でも、今の状態ではとてもじゃないけど……。
「ミル。いつも元気なあんたが、どうしたんだ?俺たちじゃ力になれないか?」
「……」
「話すだけでもきついか?」
「……誰にも話さないと約束するなら」
「!ああ、約束する」
「主に誓って、誰にも話さないよ」
二人の言葉に私は「ありがとう」と返す。
このまま塞ぎ込んでいるより、少しでも話したら心が少しだけでも楽になれるようなそんな気がしたから。
彼らを部屋に招き入れ、私は先日のことを話した。彼らは「幹部から茶会に誘われる」ことに驚き、顔を見合わせていた。
私の前にはコーンスープの入った器と小さなパンが置かれている。相変わらず食欲はおきない。
「幹部からの茶会の招待か……俺たちからすれば、とても光栄なことだ。だが、あんたのその様子からして喜んでいる感じはまず無いな」
「うん。むしろ嫌がっているよね。ヴァシリー幹部はどうにかするって言って、数日は見てないし……」
「茶会に対する恐怖と育ての親に会えないことに対する不安が、ミルの今の状態を生み出したってことか」
ルカのその発言に、私は納得した。茶会に誘われたことに怖い、という感情もあるけれど。
ヴァシリーに会えていない。それだけでこんなにも寂しくて、心細い。
「ヴァシリー幹部は何処に行ったんだろうな。弟子がこんなにも怖がってるんだから、側にいた方がミルにとっても楽だと思うんだが」
「俺もそう思う……でも、幹部には幹部の考えがあるんだと思う。どうしたら、ミルのことを守れるか。だから、何の理由もなくミルの側を離れることは無いと思う。だって、ヴァシリー幹部はミルのことをすごく大事にしているから」
「確かに。ヴァシリー幹部はミルのことをものすごく可愛がってるな。何かと理由をつけて、側にいさせることが多いし。……そのうち、戻ってくるとしか俺たちは言えないけどさ、こうして側にいることは出来るからさ」
ルカはにかっと笑う。スピカも隣で頷いた。
「俺たちもミルに何かあったら助けたい。だって、友達だから。……ヴァシリー幹部みたいに強くないし、頼りないかもしれないけど……少しでもミルの力になりたい」
私は二人の顔を交互に見た後、目の前に置かれたコーンスープに視線を落とす。ほわほわとさっきよりも薄い湯気をあげるそれに私はスプーンを入れ、一口分を掬う。そして、それを口に入れた。
少し冷めているけど、優しいコーンの味が広がった。
彼らの顔を見れば、少し驚いたように目を見開いて私のことを見ていた。
「……美味しいね。このスープ」
私がそう言えば、スピカは少し微笑んで頷く。
「そうでしょ?だから、ミルに飲んで欲しかったんだ」
「けど、無理して全部飲まなくていいからな」
「ううん。ちゃんと全部飲むよ。パンも食べる。……ありがとう。二人とも。話を聞いてくれて」
「大したことはしてないさ。な?スピカ」
「うん。俺たちは話を聞いただけ。でも、それでミルの心が少しでも楽になったなら俺たちは嬉しい」
彼らの優しい言葉に目の奥が熱くなった。
「これからもずっと一緒にいてくれる?スピカ、ルカ」
「当たり前だ/もちろんだよ」
当然のように返してくれるその言葉が何よりも嬉しい。
その想いに報いるために何があっても、彼らのことは守ってみせる。彼らが困れば、私が一番に手を差し伸べる。
互いのために想いあい、行動する。それが私の信念なのだから。
11/28/2024, 11:09:48 AM