ホシツキ@フィクション

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1月3日 今日はこたつに入ってみかんを10こもたべた。テレビもたくさんみた。おもしろかったしおいしかった!


「今日の日記おわり!」
私は冬休みの宿題のひとつである日記を書くと、勢いよくパタンと日記帳を閉じた。

明日は久しぶりにエリカちゃんと遊ぶ日だ。
エリカちゃんとは幼稚園からずっと一緒の幼馴染である。

本当は冬休みは毎日エリカちゃんの家に遊びに行きたかったのだが、母親から「非常識だからやめなさい」と言われずっと我慢してたのだ。

『明日やっと会える…!』
私はワクワクが収まらないでいた。だが明日のエリカちゃんとの遊びでは“ある物”を持ってきてと言われている。

それは、“凧”だ。
エリカちゃんの家はよく言えば古風で、毎年冬には凧揚げをするらしい。
羽子板で遊んで、顔に墨を塗るなんてことは本の中でしか無いことだと思っていたが、去年はエリカちゃんとそんな遊びをしたくらいだ。

冬は家の中でコタツに入って少女漫画を読んだり、絵を描いたり、他愛もない話をする方が好きなのだが、エリカちゃんと遊びたい気持ちが強いので寒い中での凧揚げを喜んで了承した。


だが1つ気がかりなことがある。
私の家には凧が無いのだ。

――私の家はいわゆるシングルマザー。
母親は朝早くから夜まで働き詰めだ。
それでも裕福とは程遠く、どちらかと言えば貧乏である。
毎日疲れて帰ってくる母親に
「凧買って」なんて言えるはずもなく
ずるずるとエリカちゃんと遊ぶ前日になってしまった。

『今日は言わなきゃ…』
私は意を決して母親に言うことにした。
夜11時、いつもは私は寝てる時間だが起きて待っていると母親が帰ってきた。
「びっくりした!あんたまだ起きてたの?明日はエリカちゃんと遊ぶ日でしょ?」

もう寝なさい、と言いながらコートを脱ぐ。
「あのね、お母さん…」
神妙な面持ちの私の顔を見て、母親は何かを察して私の目の前に座る。
「凧……明日必要なの……」
「明日!?」

娘からの意外な発言と「明日まで」という言葉に母親はたいそう驚いていた。

「〜〜っ!今からじゃおもちゃ屋も開いてないしなぁ…」
はあ、と母親が大きくため息をつく。
「……ごめんなさい」

母親はうーんと少し考えてから、私を見てニコッと笑った。
「大丈夫!お母さん何とかしてみるわ!」
くしゃっと私の頭を撫で、
「あんたもう寝なさい」
母親はそう言うと私の手を取り寝室へと連れていった。

凧がある、これで明日エリカちゃんと遊べる!
という安心感から私はすぐに眠りについた。


翌朝リビングへ向かうと、コタツに入り机に突っ伏して寝ている母親が目に入った。
「お母さん!風邪ひいちゃうよ!」
私は慌てて母親を起こす。母親は「うーん……」と寝ぼけていたが、私の顔を見てニコリと笑った。

「凧、出来たよー」
母親の横に置いてある凧を母親が私に見せる。
「じゃーん、手作りで不格好だけど、ごめんね」

それは市販のものと比べると本当に貧相なものだった。
というのもそれは大きいビニール袋を切って、表面には母親が絵を描いて、裏は割り箸でバッテンと軸のようなものがついていて、軸の真ん中からセロハンテープで裁縫糸が長くまとめられているだけだった。
糸の長さが足りないからか、途中で玉結びしてありとても長そうだった。

「なに、これ…」
思わず私が呟くと、母親は申し訳なさそうに
「ごめんね、こんなの恥ずかしいよね…お母さん、図工苦手でさあー!」
申し訳なさそうに笑う母親を見て、心が痛くなった。
『お母さんは悪くない。もっと早く言わなかった私が悪いのに…』
母親の周りに散らばっている失敗作と思われる凧達を見て、要らないとは言えずに結局その凧を持っていくことにした。


エリカちゃんの家に着くと、エリカちゃんとエリカちゃんのお父さんが庭で凧揚げをしていた。
「あー!カヤちゃーん!」
そう叫びながら手をぶんぶんと振るエリカちゃんとエリカちゃんのお父さんの方へ私は走り出す。
「ごめんね!遅くなって!」
エリカちゃんは気にしてないよーと言うと凧を地面に落とした。
エリカちゃんの凧は見たことがないくらい豪華でカラフルで立派なものだった。歌舞伎役者のような顔が描かれている。
それを見て思わず私は凧が入ってるカバンを自分の後ろにサッと隠した。

「凧、持ってきた?」
「ううん、忘れちゃった。ごめん!」
「いいよーじゃあエリカの貸してあげる!」
そう言うとエリカちゃんは私にハイとタコ糸が巻いてある筒を渡してきた。
そしてエリカちゃんのお父さんが凧を持ち、ふわっと上へ投げる。
私は走り出し、凧が風に乗り空を舞いだした。

「すごい!意外と引っ張られるんだね!」
私は初めての凧揚げに感動していた。
その後もしばらくエリカちゃんの凧で凧揚げをし、家に入って少しお喋りをしてから帰ることになった。
エリカちゃんはこれから親戚の家に行くらしい。

私は1人で河川敷をとぼとぼと歩いて家へと向かう。
カバンの中を覗くと貧相な凧が入っている。
と同時に、徹夜して凧を作ってくれた母親の顔が浮かんできた。
『せっかく作ってくれたのに、ごめんね。』

冷たい風が私の頬を突き刺す。
周りを見ると正月の静けさがまだ残っているのか、寒いからなのか人はほとんど居ない。

私は勇気をだしてカバンから凧を取り出す。

片手でパッと凧を上に投げ、思いっきり走る。
―――が、中々飛ばない。凧はひょろひょろと地面の上を走るだけだ。

エリカちゃんの凧と比べて飛び方も貧相な凧にガッカリする。


それでも意地があったのか、私は何回もチャレンジした。

ぶわっと風が吹いた瞬間を見計らって、思いっきり凧を投げ、走り出す。

引っ張られる感覚。
後ろを見ると、凧が空を舞っていた。
「飛んだ!」思わず叫ぶ。

凧はしばらく風に揺られ、空を飛んでいる。
さらに強い風が吹く。
すると糸がちぎれ、凧はもっともっと高く飛んで行った。

引っ張られる感覚が無くなった糸を持ちながら、私はただただどんどん高く、遠くに飛んでいく凧を見つめていた。

『お母さん、お母さんの作った凧、すっごい飛んだよ!』

エリカちゃんの凧より、高く高く飛んだ凧を見て、私はとても嬉しかった。

しばらくして落ちていった凧を取りに走り出し、凧を持ち上げると
大切なものをしまうようにカバンに入れ、全速力で家へと向かう。

お母さんに伝えないと!


すっごく高く飛んだんだ!!って!



【高く高く】~完~

10/14/2022, 1:16:07 PM