「うそ、晴れた……」
目蓋の裏から眩しさを感じてゆっくり身体を起こした。
思わず洩れた呟きとともに、窓を開ける。
曇りか小雨が降るかも、との天気予報は完全に外れたらしい。ヴェールのような雲がところどころの青空に敷かれているものの、気持ちのいい天気だった。キャミソールを身につけただけの格好でも寒くない。
「ねえ、起きて。晴れたよ、出掛けよう?」
隣で布団にくるまっている彼はわずかに唸り声をあげただけで、ぴくりとも動かない。こっちだって疲れているのに、などとつい考えてしまう。
「んー……はれ……?」
諦めず揺さぶっていると、絶対理解していない返事が来た。
「そう、晴れ。すごくいい天気だから出掛けようよ。昨日は家でごろごろしようって言ったけど、ほんとは出掛けたかったんだもん」
先週も先々週も天気のせいで引きこもらざるを得なかった。室内も悪くはないけれど、ずっとは飽きる。
買い物もいいし、春の花たちを堪能もしたい。昨日会社帰りに見た桜はそこそこ咲いていたし、まだ間に合うはず。
「っちょ、んっ!?」
いきなり寝ぼけているとは思えないほどの力で引っ張られ、唇を塞がれた。図らずも彼の剥き出しの胸元にダイブするような格好になってしまう。
「な、なによいきなり」
「寝てるが吉だ」
寝起きのガラガラ声で、外出拒否の言葉をかけられる。
「ええー! 出掛けたいよ~」
「明日だ明日。明日も晴れだったろ」
「そうだけど、二日連続でもいいじゃない」
「お前が今すごく色っぽいから誰にも見せたくない」
さらっとなにを言うのかこの寝惚け男は。素直に出かけたくないと言えばいいのに。
「今バカなこと言ってんなって思っただろ」
背中を緩く撫でながら、睨むように見つめてくる。微妙にくすぐったい。
「そうに決まってるでしょ」
「いいや、色っぽいさ」
首元を軽く舐められた。
「お前、ハイネックの服、今ないって言ってたよな?」
「え? うん。結構寒い日が続いたでしょ? 洗濯しないとないのよね」
「ストールだっけ? 巻くやつもないんだったよな」
「う、うん。うっとうしいから……ってなんなの?」
「つまり、首を隠すものがないってわけだ」
謎かけのような物言いに数秒頭を悩ませ、短い悲鳴が漏れた。
「ちょ、ちょっと! まさか首に!」
「ご名答」
着るものが限られるからあまりしてほしくないのに、油断してた!
「い、今から洗濯しなきゃ!」
文句を言いたいところだが防御用の服の確保が先だ。慌てて起き上がると「ぐえっ」という醜い悲鳴が聞こえてちょっとすっきりした。
「明日は私の行きたいとこに付き合ってもらうからね! 罰よ!」
「へいへい」
「所有の証」を残してもらうこと自体は嫌いじゃないのだが、このぶんだとまだまだ黙っていた方がよさそうだ。
お題:快晴
4/14/2023, 3:45:30 AM