お題『やさしい嘘』
保健室に入ると部屋の中は
酷く甘い匂いがしていた
「特待生サマ、香水でもつけてんの?」
匂いキツ…と、でも言いたげな表情をしながら
問いかける
「まぁ…そんなところです…」
少し硬い笑顔で返事をする
そ、と呟くと彼は手に持っていた
資料をベッドに座る彼女に渡した
「はい、これ。任務の資料。
ていうか、体調不良で倒れるとか
信じられないんだけど?
自分の体調管理すらちゃんと出来ないわけ?」
冷たい視線を向けながら彼は言う
「それに、体調不良なのに
こんなどぎつい香水つけてるとか…
馬鹿なの?特待生サマ」
はぁ、とため息をつきながら
隣のベッドに腰をかける
「資料、わざわざありがとうございます…。
あはは…次からは気をつけます…。」
苦笑いをし、資料を手に取る
「この匂い、きついですよね…。
私も大嫌いなんです、この匂い。」
彼女の表情から笑顔は消え暗い表情をする
「………そうなんだ。
自分の嫌いな匂いを自分に着けてるとか
特待生サマも面白いね〜。」
彼女の顔も見ず彼は彼女に対しそう言いながら
立ち上がりドアの方へと向かっていった
「じゃ、オレはもう行くから。お大事にねー。」
ひらひらと手を振り
部屋から出ていく
バタン
「……玲音くん…香水だって…
思ってくれてる…よね…?
もうタイムリミットって…バレてないよね…」
そう静かにつぶやくと
ベッドに座る彼女は自身の膝にかかっている
布団に顔を埋めた
───────
バタン
「……っ…」
保健室から出た彼はドアを閉めると
その場にしゃがみこんだ
「あの匂い、香水なんかじゃないじゃん…
もう、怪異になる寸前じゃん…
もう、間に合わないのかも。」
静かに涙を流しながら
彼は小さくつぶやく
オレ、今特待生サマに”嘘”ついちゃったな。
香水って言ったけど入って直ぐにわかった。
あの匂いは香水なんかじゃなくて、
花の匂い。甘ったるい香りの花の匂い。
特待生サマがなってしまう怪異
キクロス、あれは花の怪異
つまりはそういうことだ
「……まだ、わずかだけど時間はある。
キクロスに少しでも近づける任務、
探さないとな。」
袖で涙を擦り立ち上がる。
「オレに何も言わずに、怪異になるとか
許さないから。」
ドアの方を向き彼くらいにしか聞こえない
声で言うと
彼は廊下を歩いていった。
これは二次創作です
1/24/2025, 12:00:38 PM