電車に揺られ、心地よい温度に目を瞑る。自分の降りる駅は1時間先の終点だから、多少眠っても大丈夫……。
「……さん、お姉さん、終点ですよ」
とんとん、と肩を何度か優しく叩かれ目を開ける。ぱちぱちと瞬きして、お礼を言おうと声の主を見上げた。
「ありがとうございま……ひっ?!」
「……どうかされました?」
「く、くび、」
見上げた先に居たのは人の形をしているのに首がない化け物で、首がないのに声が聞こえる。
「……あれ、貴方……まぁいいや。家はどの辺です?」
「は、ぇ、ぁ……」
「送っていきますよ」
「や、やめて……まだ、」
「あー……ごめんなさいね。悪意とか敵意はなくて、そのー……ここに居るべき人じゃないですから、向こうまで送り届けます」
「ひゅ、っ……」
恐怖から過呼吸になる自分の背中を優しくさすり、手を重ねられる。その手は何故か温かくて、妙に安心した。
「帰りましょう。貴方の居るべき場所へ」
手を引かれ駅を通り抜けて、やけに霧の濃い街を足早に歩いていく。その足はまるで、自分の家へ行くかのように迷いなく進んでいくのだ。
「……ここ、ですよね」
「あの、なんで」
「早く帰りなさい。ドアを開ければ帰れるはずです」
「……わ、かりました……」
ドアを開け、玄関に入る。キィ……と音を立てながらドアが閉まりきる寸前、悲しそうな声が聞こえた気がした。
「……会えてよかったよ、お姉ちゃん」
自分に弟なんかいない。双子になる予定だったと言うのは親から小耳に挟んだ事が、……ことが、ある。
勢いよく後ろを振り返ろうとしたその時、目の前にひろがったのはいつもの見なれた終点の駅だった。
『終点』
8/10/2024, 11:10:48 AM