見えない未来へ(オリジナル)(異世界ファンタジー)
仲間が自分を助けて死んだ。
岩で塞がれた洞窟の前で、ただひたすら泣き喚き、泣き疲れて気絶して、起きたら地面を手でひたすら掘って、疲れて気絶して、また起きてを繰り返し、日付の感覚が曖昧なまま、3日ほどが過ぎた。
仲間を埋めた岩はびくともせず、手で掻きむしった地面は深さ1センチも掘り進められていない。
身体中の水を絞り出したようで、もはや涙も出なかった。
朦朧とした意識の中、爪の剥がれた指をひたすら地面に突き立て掘り進めようと動かしているが、力もなくなり、地面に血で跡をつけているだけといった有様だった。
頭の中でぐるぐる回るのは、激しい後悔。
強力な火の魔法を使えていた自分が、なぜか今は使えなくなっている。
だから、洞窟の岩を吹き飛ばす事もできない。
魔法が使えなければ自分はあまりにも非力だった。
呪いの証左か、右手の甲に、見たこともない紋様が浮かびあがっている。
これさえなければと、噴出した怒りのままに、右手を岩に叩きつけた。
こんなもののせいで。
手の感覚がなくなるまで打ち続け、もはや体力も気力も失い、その場に倒れ伏した。
このまま死んで、皆に詫びに行こう。
そう思い、全てを諦め目を閉じた。
口や目に湿気を感じ、ぼんやりと覚醒した。
重い瞼をなんとかこじ開けると、自分を覗き込んでいる何者かが見えた。
(誰)
口はそう動いたが、声にはならなかった。
それは、頭がヒトより大きく、体はやけにヒョロ長で、まるで畑にいるカカシのような何かだった。
濡れた布で顔の汚れを拭き取り、水を飲ませようとしてくれているらしい。
死にたいのに邪魔をするな、という反発心から、キュッと口をつぐみ、嫌々と首を振った。
その人は眉をひそめたかと思うと強い目をして手を振り上げた。バシンという大きな音がして、じんわり頬が熱くなる。
どうやら頬を叩かれたらしい。
見た目からおそらく男である「彼」は、涙をポロポロと落としながら、今度は力のこもらない両手で、こちらの頬をパチパチと叩き続けた。何も口に出しては言わないが「死にたいなんて考えるな、生きろ」と言われているようだった。
なんとなく罪悪感が湧いて、口に当ててくれている布を弱く吸うと、気づいて手を止め、嬉しそうに頷いてくれた。
その後、すぐに意識をなくしてしまったが、彼はなぜか面識のない自分のそばにずっとついて世話をしてくれて。
結局、仲間のところには行けなかった。
命が助かった後も、しばらくは自傷行為がやめられなかった。
ただ、その気配が濃くなると、カカシの彼が、腕をつかんで止めにくる。
死なせてくれない彼に恨みを募らせる時もあったが、彼は何も言わずにそばにいて、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
彼は一度も意味のある言葉を発しなかった。
もしかしたら人とは異なる言語体系を持つ種族なのかもしれない。
体力が戻ってくると、脳も働くようになった。
土を掘り返す道具をつくり、まずは入り口の仲間の遺体を全て掘り出した。
出口を塞ぐ岩を砕き、少しづつ中に掘り進めて行く。
中程まで行くと、湿った層に行きつき、洪水のような跡があった。
最奥、遺物があった洞穴まで到達すると、2人の仲間がほぼ白骨化して、折り重なるように、互いを庇い合うようにして、そこにいた。
泣いた。
涙が枯れるまで、声をあげて泣いた。
彼らに助けられた命だった。
それを、安易に投げ出そうとしてごめん。
本当は皆で未来を生きたかった。
我々は孤児院しか知らず、その世界から飛び出したばかりだった。
冒険者として広い世界を見て回ろう。
そう、皆で話していた。
それはもう叶わない。
死ぬわけにはいかず、生きるしかないのなら。
彼らの形見を持って、世界を旅しよう。
魔法も使えなくなり、一人旅でどこまで無事に進めるかわからないけれど。
彼らの分まで生きなければ。
3人を弔った後、墓の前でそう決意した。
遺跡の最奥で発見した、この惨劇の原因となった遺物の剣を拾い、旅の供とする。
目にするのも辛いが、彼らの死を、意味のないものにするわけにはいかないから。
なぜか最後まで自分を助けてくれたカカシの彼に別れを告げ、深く深く感謝の礼をして、ラッツは旅立った。
見えない未来に、今は、夢も希望も抱かぬままに。
11/20/2025, 2:36:19 PM