"雪を待つ"
「ご馳走様でした。……さて」
居室で昼食を摂り終え、残りの昼休憩を午後の準備にあてようと椅子から立ち上がる。
椅子から離れて立ったのと同時に、ハナが皿から離れ軽快に窓のヘリに飛び乗って窓の外を見上げる。
「どうした?」
疑問の声をかけるが、こちらを振り向くどころか返事すら無い。ただ黙ってじっと窓の外を見上げている。
──一体どうしたんだ……?
窓に近付いて、見上げるハナの横顔を見る。
──まるで何かを待っているような目だ。
ハナの見上げる目に、そんな感想を抱いた。
──ならこいつは、何かを待ってるのか?一体何を……。
深く深く思考を巡らせていると、ハナの髭が微かに動いた。
「みゃあん」
そう思ったのと同時に、『待ってました』と言わんばかりの鳴き声を上げ、空を見上げる。
白い綿のようなものが、ふわふわと舞いながら落ちてきた。
「……これを待ってたのか」
ハナが待っていたものは、雪だった。けれど一体なぜ?
「あぁ……。こないだ雪降ったのを見たからか」
あの時、居室にいたハナも舞い散る雪を見ていたらしい。その時に雪に魅入られたのだろう。
──だからもう一度見たくて、窓に近付いたのか。
そして、改めて窓の外を見上げる。
舞いながら落ちてくる様が綺麗で、再びスノードームの中にいるような感覚になり、空に引き込まれるように舞い散る様を見上げる。
「……っと、駄目だ駄目だ。早く戻らねぇと……」
頭を振り、何かに弾かれたように身を翻して扉へと向かう。そして振り返り
「そんじゃ、また行ってくる。大人しく待ってろよ」
窓辺に座るハナに言葉をかける。
「みゃあ」
俺の顔を見ながら、返事の一声を上げる。その鳴き声を聞き扉を閉めて診察室に向かい、定位置に着いた。
12/15/2023, 2:13:05 PM