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まだ霧の出ているような早朝に湖の周りを歩いていると、現実と妄想の境目があいまいになる時がある。薄暗くて湿った地面や葉っぱたちは、ともすれば神秘さえ思わせる。そういう幻想の中を散歩していくと、次におぼろげになってくるのは自己と他人である。ときどき、美しさは人間を等しく穏やかにするのではないかと錯覚する。しかし、美の概念などはこの世に存在しない。何が美しいかはわたしが感じるまでのこと。
わたしは知っている。この甘美なる夢から家へ帰っていくと、妻はいつも言うのである。
「またズボンのすそ汚したでしょう。泥は難しいのよ!」

11/8/2024, 4:09:27 AM