『眠りにつく前に』
 今日、あったことを話そうか。
 家を出た時、お隣さんと一緒のタイミングでね。
 ぺこって、お互いに会釈したんだ。
 予想してなかったから、ちょっとドキッとしたな。
 それから、駅のホームで生徒手帳を落とした子がいて。
 拾って渡してあげたんだけど、凄く萎縮してたんだよね。
 私、怖そうに見えたのかな。
 ……そんなことないって? あはは、ありがとう。
 会社では……いつも通り。
 見慣れた顔ぶりで、仕事が忙しくて、ちょっと嫌なこともあって……。
 でも、同僚とお昼を食べた時は楽しかったな。
 帰りはね、会社の前の花壇に綺麗な花が咲いてることに気付いたの。
 前から視界には入ってたはずなんだけど、なんか、綺麗だって気付かなかったんだよね。
 君から連絡をもらって、君のことを考えていたからかな。
 ほら、昔のこと。
 学生の時にさ、野花を摘んで、花束をくれたじゃない?
 ……恥ずかしいから忘れてくれって?
 嫌だよ、私の大切な思い出だもの。
 あの時のこと思い出したからかな。
 色も鮮明で、胸を逸らすように花弁を張って、風に揺られている花がさ、凄く綺麗に見えたんだ。
 私も、君にあんな風に見られたいなって思ったの。
 ……うん、ありがとう。
 ふふっ……なんだか照れくさいね。
 ね、今日は抱きついて寝ていい?
 ……まだまだ話したいこと、沢山あるんだ。
 君の胸、あったかいから途中で寝ちゃうかもだけど……。
 ……うん、君の話も聞きたい。
 いっぱい話そうね。
11/2/2023, 12:37:46 PM