砂時計の音
「好きです。」
その言葉に断りを告げる。
「俺のとこに来たら幸せにしてみせます。」
そんな言葉を自信もって言える姿を羨ましく思いながら、断りを告げる。
「俺に沼らせてみせます!」
無理だよ。と、断りを告げる。
何度繰り返しただろうか。断ることにも疲弊してきた私は、ある時断り以外の言葉を口にした。
「わかった、いいよ。」
その言葉と共に砂時計の音が響き始めた。
砂時計が落ちるにつれ、彼は敬語を使わなくなった。
「好き。」
ありがとう。
その繰り返し。
砂時計が有限であることを忘れた私は、気づかないうちに彼の沼に沈んでいた。
「ねぇ、ぎゅーして?」
「ねぇ、どうして笑ってくれないの?」
「ねぇ、こっち見てよ。」
私が沼に沈んだ頃には、砂時計は半分を切っていて、彼の心は離れかけていた。
「どうして笑ってくれないの!どうしていつもいないの!どうして?」
どうして?なんで?
砂時計の残りが減ると共に、私は不安定になった。音がうるさくて、彼の声が聞こえなくなった。
「嫌いにならないで!ごめんなさい、ごめんなさい!すぐ出ていくから!嫌いにならないで....。」
壊れた私は荷物をまとめて彼の家から飛び出した。
砂時計の最後の1粒が落ちきった。
サーっと響いていた音が無くなると、魔法が解けたように涙がこぼれ出し、感情を知った。
「好きに、なってたんだ....。」
沼らせる。彼は有言実行していて、私は気づかないうちに沼に落ちていたのだった。
それからどれだけもがいても、砂時計の砂が元に戻ることはなかった。
音と彼が無くなった世界で、涙を零し続けた。
10/17/2025, 1:09:24 PM