名前の無い音

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『秘事』


あぁ やっと……
決心がついたわ

連絡先 あなたの名前
ようやく 消せた

どうせ もう あなたから
私に連絡なんて よこさないでしょ
私からしか したことないもの

もうずっと 腐れ縁だから
あなたの家庭を壊したいとは
思ったこともない

だって 本気で
私のことを 愛してくれていたわけじゃ
なかったでしょ?

ただ 都合が良かっただけよね
愛される楽しみを
感じていたかっただけでしょ?
そんなの ずっとずっと昔から知っていた

そうね
好きだったし 愛してた
たぶん あなた以上に愛せる人
居ないと思うもの

だから あなたに抱かれるのは
幸せだった
一方通行って
知っていたけれど それでも良かった

あなたからの言葉を
ただ ひたすら 何年も何年も
待っていた

無理なお願いだって
沢山聞いた
あなたのお願いだから
聞いてあげたの
わかるでしょ?
それだけ あなたの事
無条件で愛してた
ずっと ずっと

こんなの まともな人生じゃないわよね
そりゃそうよ
地獄に落ちても仕方ないわ
そんなの覚悟の上だもの

後悔なんかしていない
これっぽっちもね

ただ……最後に聞きたかったな
あなたの本音ってヤツを
本心ってヤツをね


******

「ただいま~」

私は スマホを触っていた手を
ゆっくりと止めた

「おかえりなさい!」
「はぁ~ お腹空いた~」
「お疲れ様 今日はね~ ハンバーグだよ!」
「ごちそうだね。何か良いことあった?」
「なにも ないよ~」

椅子から立ち上がり キッチンへ向かう
薬指の指輪を くるりと一周回す
結婚した時からのおまじない

さぁ ハンバーグを焼こう

愛する人のために

こ れ か ら
愛する人のために……

6/9/2022, 1:01:48 PM