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「時計の針」

もし時計の針を合わせるように、時間を進めたり戻したりすることができたなら、あなたはどこにその針を合わせますか?

たまにはこんな空想もいいだろう。時間の旅を楽しもうじゃないか。

私なら、まずは過去に行くだろう。後悔ばかりの人生ではなかったが、もし叶うなら、こうしておけばよかったかもと思うことがない訳ではない。

私にだって、あの時ちゃんと想いを伝えていればと思う青春あるあるみたいな話があるのだ。

彼女はかおりちゃんという同じ高校に通う同級生で、部活も一緒だった。家も同じ方向だったので、よく自転車で話をしながら帰ったものだ。

私は密かにかおりちゃんが好きだったが、告白する勇気が持てずに月日だけが流れていった。

そのうちかおりちゃんに別の好きな人ができてしまうという連ドラあるあるになるのだが、こともあろうか、その彼のことでかおりちゃんから相談を受けるという、これまた恋愛漫画あるあるみたいな展開になってしまう。けっきょく応援する立場になってしまったお人好し100%の私は、今更好きですとも言えず、私の青春は終わってしまったのだった。

さて、ここで例の時計の登場だ。

かおりちゃんがその彼に出会う前に私が告白していれば?もしうまくいって付き合うことになっていたなら?

人生変わっていたかもしれない。少なくとも高校時代はハッピーだっただろう。でもそれはその後もうまくいっていたかどうかはわからない。なんだかんだいって結局今の妻と結婚して、娘が産まれて大はしゃぎしている自分がいるような気もする。

妻がかおりちゃんになるということは、娘も違う子になってしまうということだ。その子は、もっと頭が良くて、優しくて、素直な子だったかもしれない。かおりちゃんの子だから、間違っても今の娘のように、何かといえばボケ倒して、宿題もせずにToutubeばかり見ているアホな子ではなかっただろう。

でもこの先何年かして今の娘が生まれてくるとわかっていたら、もうかおりちゃんへの告白も、うきうきデートもなしでいいと思うのだ。

だってそれ以上に、嬉しくて、楽しくて、時にめっちゃ腹も立つけれど、かわいい娘との生活が待っているのだから。

実際過去は変えられない。でも未来はまだ変えられるような気がする。

娘と、家族と、これからも笑っていたいと思う。

時を操る時計なんて、なくてもいいか。

それよりも未来に向けて、まずは蓄えてしまったこのお腹の肉を、なんとかしよう。

それが一番現実的だ。

2/6/2023, 4:47:11 PM