月花

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「言葉はいらない、ただ・・・」


数日前の夜、突然現れた少女を兄上の所で最近見かけるようになった。
つまり、王太子の妃候補というところだろう。

ギルの話では3姉妹の真ん中の姫らしいが、何やら大人達の思惑があるようだ。

あの夜から数ヶ月が経った頃、初めて正式に兄上から紹介された。
「ドウジン良く来てくれた。紹介するよ、彼女が私の妃になる姫、レディア・アクタスだ」
「レディア、これが末の弟のドウジンだ」
「初めましてドウジン様」初めましてだと?良く言う…
「レディアと申します。仲良くしてくださいね」屈託のない笑顔で少女は、そう言った。
数秒、少女の吸い込まれそうな青い瞳に見惚れて時間が止まった。
「ドウジン?ははは…どうした?美しいだろレディアは」
「いえ、いや、はい」慌てて妙な返答になってしまった。顔が熱ってているのが自分でもわかった。
少女がクスリと笑っている。
何も言えなかった。
誰かに対して恥ずかしいと思ったのはこの時が初めてだった。

「今夜、両家揃って食事をする。お前も楽しみにしていてくれ」
「はい。兄上。それでは一度失礼致します。」壇上の二人に拝礼し素早く振り向きドアへと歩き出した。自分の鼓動がはやるのがわかった。なんだコレは!


両家の顔合わせの食事会では、終始和やかに過ぎていったがオレはとても退屈だったしイライラしていた。
談笑が続いていたが早々に退席を願い出て一人庭へ下りた。

気がつくと初めて少女と出逢った場所に佇んでいた。
何故だ、なぜこんなにイライラするんだ。

この頃のワタシは、それが恋だとは気づいておらず、言葉なんかいらない、ただ・・・あの吸い込まれそうな澄んだ青い瞳ともう一度見つめ合ってみたいと思っていたのだった。

8/31/2022, 9:52:46 AM