こめかみが軋むほどの怒りを覚える。
世の中の不条理さに俺一人が嘆き、怒り狂ったとて世は変わらない。
"それでも、許されぬべきことが今どこかで起こって、その度に、傷つく誰かがいることが俺は許せない。"
いつかの英雄は語った。
理不尽で淘汰されるべきの弱者だと諦めず、彼は世に抗った。
その結果、彼は不条理な定理の多くを覆し、代償として、美しく散った。
そして今、その英雄は世間に石を投げつけられている。
彼は命を賭してまで俺たちのために働き、犠牲となったというのに。
結局、人は利益の追求ばかりを考える醜い生き物だ。
救われた恩など知ったものかと、それは昔の話だと棚に上げ、救われた身でありながら平気でその墓石に唾を吐きかける。
どうせ、こうなるんだ。
命を懸けてまで、こいつらを救う価値などなかった。
お前が死んでもなお、世の中など何も変わりやしない。
緑の茂みに身を隠しながら俺はかつての友であり、もう会うことは叶わない英雄に悪態をつく。
男は、彼の墓に供えてあった花を踏み荒らされ、蘇らぬ墓の主である友の彼を罵られようとも、息を殺しながら怒りと恐れに身を震わせることしか出来ない。
ほら、お前一人が不条理に立ち向かっても、何も変わらない。
俺たちのような愚か者は、お前が身を犠牲にしても、まだ震えて、その場で足踏みすることしか出来ないのだ。
だから、不条理な世のままで良かったから、それで構わなかったから、まだ、せめてお前は、俺の良き友人として生きていて欲しかった。
男は、体を震わせながら、叶わぬ望みを、墓に眠る英雄にぶつけるほかなかった。
それしか、目の前の男には出来なかった。
―――変わらぬ世
お題【不条理】
3/18/2024, 2:52:41 PM