→短編・優竹温泉
優竹温泉の老舗旅館に新しい仲居さんが入りました。
「それじゃ今から旅館を案内するから着いてきてね」
女将さんの旅館案内が始まります。
「優竹温泉は起源はご存知?」
新人仲居さんは申し訳なさそうに頭を横に振りました。女将さんは「素直が一番!」と彼女を安心させて説明を再開します。「この温泉はね、ウチのご先祖様が源泉を見つけたのが始まりなの」
こじんまりした旅館のフロントやロビーを紹介しながら、女将さんは新人仲居さんを連れて縁側で足を止めました。
「あれを見て」
目を見張るほど美しい日本庭園の中央の、不自然な小熊ほどの岩を、女将さんは指し示しました。
「その昔、ご先祖様が優しく竹刀で岩を叩いたところ、あら不思議、温泉が湧き出したと言われているわ」
「やさしく、しないで?」
「えぇ、優しく竹刀で」
それ以上何も言わず、二人は顔を見合わせました。
テーマ; やさしくしないで
2/4/2025, 5:53:59 AM