夏の忘れ物を探しに
昔の話だ。中学の頃だろうか。あまり友達もいなく、打ち解けられていない中学最後の夏。二学期が始まってからも相変わらず独りぼっち。
一人で、学校を登下校するのは別に苦ではなかったし、そっちの方が気楽でよかった。誰かに話しかけてほしいなんて、その頃は考えもしなかった。唯一、小学校から仲の良かった友達も、他の誰かと楽しそうに話している。いつかは離れていくのだろう。そう思うのに、別にどうでもいいやと背を向けてしまう。
夏休みが終わってからも、一人で登下校をする。自分の好きなことだけを考えて、嫌なことは考えない。そうしていると、いつの間にか学校に着いている。着いた途端に憂鬱に感じる。授業もまともに受けたくもないし、誰かに質問もしたくない。まさに、あの頃は一匹狼だった。
ある日、下校中に横断歩道の待ち時間に空を見上げてみた。すると、夏なのにうろこ雲が空全体を覆っていた。うろこ雲は秋の雲のはず。まだ暑くて制服にも汗が染み付いているくらいなのに、空はもう秋の雰囲気になっている。
横断歩道を渡り始めると、自然に雲から地面に視線が移った。さっきまでは憂鬱だったのに、なぜか少しだけ気分が良くなった。うろこ雲は天気が急変する前触れだと言われることがある。本当にその通りだと思った。私の中の天気も晴れに変わった。
あと半年も頑張れば、この生活も終わる。高校生になったら、新しい友達を作ってみたい。今までそんなことを考えたことなどなかった。たぶん気分が高揚しているのだろう。高校生に早くなりたい。そう思った。
しかし高校生になった今では、中学校の頃に戻ってやり直りたいと思っている。何か大きなものが欠けていた。そう感じるのだ。嫌なことからずっと逃げていた。あの時に、逃げていなければもっと楽しかったのかもしれない。
高校生になった今は、逃げずに立ち向かっている。そして壁を乗り越えた時の達成感が快感になっている。もっと前から、そうしていればよかった。あの中学最後の夏に、あの雲を見たときに気づくことはできたのだろう。しかし、もう戻ることはできないから、進むしか方法はない。夏のあの時の気づかなかった忘れ物は、今になって見つけられた。次は忘れ物のないように、一歩一歩進むだけだ。
9/2/2025, 12:30:01 AM