"泣かないよ"
「はぁーっ、今日も無事終わった……」
見回りを終えて、椅子に倒れるように座る。ぎしり、と椅子が軋む音が鳴る。
「みゃあ」
『ただいま』とでも言うように、俺の言葉に続いて鳴く。
俺が椅子に座ったのを見るやいなや膝の上に乗ってくると、俺の顔を覗き込むように身体を伸ばす。
先を行くようになったのと同じくらいの時期に、見回りを終えると俺の顔を覗き込もうとしてくる。数日前からは、頬を舐めて来るようになった。
「やめろぉ……」
こういう事をされると、泣きながら見回りしていたみたいで恥ずかしくなる。泣いてないはずだけど。
「よしよし、ありがとな」
ハナを撫でながら、ゆっくり引き離す。
が、今度はペタペタと俺の顔を前足で触る。
「やめ、やめろって……」
少しは慣れてきたが、やはり完全には慣れない。
ハナの前足が口の中に入りそうになるのを何とか阻止しながら今度こそ引き離す。
「みゃあーう」
引き出しの中からハナお気に入りの猫じゃらしを出して見せると勢いよく膝から降りてじゃれ始める。手首のスナップを使って動かすと更に食い付いてジャンプや横移動を使ってじゃれる。
ふと、ある考えがよぎる。
──もしかしてこいつ……俺を心配して……?
都合の良い解釈だが、胸の奥が暖かくなる心地がした。
「……ありがとな」
猫じゃらしを動かしながら小さく呟く。
すると、頬が少し緩んだ感じがした。
3/17/2024, 11:19:12 AM