好きとか嫌いとか聞かれてもわからない。どうしてそんなにまっすぐな目で好きだなんて言えるんだろう「嫌いもひっくるめて好きだから」まるで私の心の中を読んだみたいに彼のセリフは続く「あのさ、」「好きかわかんない、とか言わないでよ」「言わせてよ」エスパーみたいなこの男のこの性格だって、知らないわけじゃない。外で降る雨の音が強くなる。雨を背景にオレンジジュースをストローで飲む180超えの高校生男子を独り占めできる贅沢も分かっている「彼氏、いないって言ってたよね」「じゃあ付き合う、は違うじゃん」「それはね」わかりやすくため息をついてみたものの、変わらない表情でストローを咥えている「俺にかわいい彼女ができたら嫌じゃないわけ?」「それは」「毎日惚気て紹介なんかしちゃってさ」「なんで私と毎日会う想定なのよ」「好きだから毎日会いたいに決まってんじゃん」彼女の話はどこにいってしまったのか、会話にならない会話に今度は無意識にため息が出る「好きとか嫌いで括れないわけ。英のことをそういう風に考えたことない」もう10年以上一緒にいて、急に好きと嫌いなんて言葉で片付くわけない。もっと複雑で、難解で、ぴったりな言葉が浮かばない「でも、英とずっとこうして一緒にいたいな、と思うよ」歳を重ねて、いつの間にか私の背なんて追い越して、子どもっぽいところは変わらないけどたまに見せる男らしい表情にドキッとした日だってある「ちょっと待ってよ、散々焦らして告白返し?」珍しく顔を赤くしている英に余裕そうに笑ってみせる「好き嫌いなんてとっくに超えてるんだよ」
1つだけ
4/3/2024, 11:14:28 PM