こより

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「はぁ。また贈り物ですか」
「ええ。サメが知らせてくれました。人手が増えるのはありがたいですね」
「うーん……」

 ありがたいような、そうでないような。ぶつぶつと呟く乙姫とは対照的に、報告に来た亀は鷹揚に笑った。

「何が姫様を悩ませていますの?」
「悩んではいませんが……どうせ今回も手を焼く方でしょう?」
「そうですねぇ……確かに、ご気性は少し荒いですが、重労働でも意欲的な方ですよ。私なんかの前鰭では竜宮城の補修改善や増築は難しいですし」

 そう言って亀はふわふわと微笑む。その包容力たるや。亀の甲より年の功とはよく言ったものだ、と思う。

 いつの頃からか、時折、地上から人間が贈られてくることがあった。簡素で味気ないラッピングとは対照的に、龍や鯉などの美しいペイントを施されてやってくる贈り物──もとい、人間たちは竜宮城の存在も知らずに贈られてくるのだ。同意がない。それは、少し可哀想じゃないかと思う。別に乙姫は人間を寄越せと言ったことはないのに。無理やりは良くないんじゃないか。それに。

「人間ってもう少し柔らかな雰囲気の方はいらっしゃらないのかしら? それこそ浦島太郎様みたいな正義感溢れる方でも良いわ。──なんと言うか、こう、地上から送って頂く方々って、ウツボみたいな荒くれ者の魚相をしているんだもの」
「人間たちは人相(にんそう)と呼ぶらしいですよ」

 そうじゃなくてね、論点はそこじゃなくてね。言いかけた言葉も、言語化できない違和感も泡になって、海面へと駆けた。このまま泡が地上まで上がって、音になって、贈り物をしてくださる方に伝わってくれないかしら、と現実逃避。

「でもまあ、ラッピングも贈り物のセンスもありませんわよね」
「そう思う?」
「ええ、両足をコンクリートで固めるなんて包装の仕方、美しくはないですもの」
「それは本当にそうね。─── それに、なぜ全員血塗れの状態なんでしょうね?」
 

お題/あなたへの贈り物

1/22/2025, 4:29:10 PM