#8
夜会1週間前。
私は、前々からの約束通りウォード様と茶会をしていた。
「珍しいですね。ウォード様の御屋敷で茶会をしようなんて。」
そう。今日はウォード様から、自分の屋敷でしないかとお誘いを受けたのだ。
普段、あまり人を入れたがらないウォード様らしくない選択。何かあるのではないかと期待半分、勘繰り半分だ。
「ええ。今日は色々とあってこっちの方が都合が良かったんです。」
何だかバツが悪そうなウォード様。
今日は私がお勧めの茶店に行く予定だったからなのかもしれない。
「そうなんですか。私は、ウォード様の御屋敷でお茶ができて嬉しいです。」
ウォード様に罪悪感を持って欲しくなくてあえて口に出す。本当のことだから、信じて欲しい。
「そうですか。それなら、よかったです。」
安心したようにウォード様は表情筋を緩ませた。
「あ!そうだ、ウォード様に渡したいものがあるんです。」
言いながら、ポシェットから、空恋石を入れた箱を取り出す。
「贈り物、ってことですか?」
「はい。ウォード様らしいと思って!」
もうどうにでもなれという気持ちで箱を手渡す。
ウォード様は一瞬驚いた後、顔を喜ばせて、目の前でラッピングを開封してくれた。
「これは…空恋石のネックレス、でしょうか?」
「はい。縁起が悪いとは聞いたんですが…お気に召しませんでしたか?」
「いえ。シェリル嬢からのプレゼントとなら何でも嬉しいですよ。ところで、何故空恋石なんです?」
嬉しいことを言ってくれるウォード様。私から物をもらうだけで嬉しいなんて、言われたことがなかった。
「実は…この宝石を見た瞬間、ウォード様だ!って思いまして。」
「私?」
「はい。ちょっと澄んで凛としている感じとか、ほのかに感じる温かみだとか。何より、色がウォード様の瞳に似てるんです。」
「そう。それなら、大事にします。これから夜会の度には毎回つけていきます。」
夜会、という単語が出て思わず反応してしまう。慌てて気にしていない風を装うも、ウォード様にはバレてしまった。
「ああ。夜会のドレスがまだでしたね。それで、今日は我が家までお呼び立てしたんです。」
良かった。ウォード様は忘れてなどいなかった。
安心とともにホッと息を吐き出す。
「それで、だったんですね。」
「ええまぁ、はい。シェリル嬢に似合うのは何かと考えていると沢山頼んでしまいまして。」
恥ずかしそうに照れ笑いするウォード様に、今までのこと全てがどうでもよくなる。
ウォード様のエスコートを受けて、私はドレスが置かれているらしい部屋へと向かった。
「わぁ!」
ドアを開けるなり大量の可愛いドレスが目に入って来て感嘆の声を漏らしてしまう。
「選ぶのが大変でしょう?」
苦笑気味にウォード様は言うけれど、大変というよりも、楽しそうだった。
実は、こういう沢山のドレスから一着選ぶというのが子供の頃からの夢だった私は、今日一日で沢山の願い事が叶うと一人歓喜していたのだった。
7/7/2025, 10:05:21 AM