小学生最後の春休み
私の父と母はなくなった
新しい生活に向けて準備をすませて
数日後に中学生になる朝
私とお兄ちゃんと父を置いて
母はひとりの女になった
テーブルに置かれた1枚の紙と
大皿いっぱいのお握り
クタクタに疲れ帰ってきた父は
今まで見たことないくらい狼狽えていて
その日から少しずつ父は父ではなくなっていった
男は仕事を辞め
ひたすら酒浸り
機嫌が優れないと暴れるようになった
お兄ちゃんは学校を辞め
朝から晩まで
ひたすら仕事づくめで
面と向かって会話をする機会が減ってしまった
私は中学生になって
助けになりたかったけれど
悲しそうなお兄ちゃんの顔を見て
今はひたすら勉強にのめり込んでいる
家に帰ると
隅に縮こまって
勉強したり本を読んだりする
大抵の場合
男は酔いつぶれて寝ているんだが
またに起きていて
支離滅裂なことを怒鳴り散らしてくる
あの日は起きていた
静かにしていれば何もしてこないと思っていたのに
強い衝撃に襲われた
頭がぼーっとする
部屋の中央に投げ飛ばされた
大きな音を立てて瓶や缶がくずれる
うまく体が動かせなくて
男が馬乗りになって
こぶしを振り上げた
大きな声を出すべきなのに
助けてと言いたいのに
喉はひきつって
呼吸が浅くなる
目の前が真っ白になった
気がつくと私は病院のベッドで寝ていた
そばにお兄ちゃんがいて
私が声を掛けると
普段泣かないお兄ちゃんが
大きな声で泣いていた
抱きしめられて
呆然としていて
自分の手に目が留まる
包帯が巻かれていた
ゆっくり動かすとじんわり痛い
男は意識がもどらないらしい
誰かに必要以上に殴られたようだ
私?
9/5/2025, 5:44:50 AM