かも肉

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作品77 二人ぼっち



 卒業をした。長いようで短い三年間。辛いことのほうが圧倒的に多かったけど、それも悪くなかったなと思っているのが、何だか不思議だ。数えるしか歌っていないこの校歌とも、今日でお別れか。
 コロナの影響がまだ残っているのか、卒業式に在校生は出席しなかった。それとも、ここらへんの学校では当たり前なのだろうか。疑問に思うものの、別に興味はない。
 式のあと、今までの学校同様、先生のつまらない話が始まった。これまで担当したクラスの中で一番最高のクラスでした、だなんて言ってるけど、この先のあなたの人生で何度、その最高は更新されるのでしょうね。非常に役に立たない記録だこと。にしても話長いな。寝てやろうか。
 「ねえ、ロンTの話長くない?」
 ふと、隣の席の友人から話しかけられた。
 ロンTというのは先生のあだ名で、いつも話が長く背もひょろ長い、ロングなティーチャーというわけで、かつての先輩たちの代からそう呼ばれていた。思えばロンT、毎日ロングTシャツ着てたな。
 そんなことを思い出しながら声のした方を見ると、友人が呆れたような笑みを浮かばせながら、私の方を見ていた。
「それな。もう寝ちゃおうかな」
「やばすぎ」
 こんなくだらないことなのに、友人がおかしくてたまらないとでも言うかのように、くつくつと笑う。その様子がなぜか可笑しくて、私もつい笑ってしまう。箸が転がっても笑うとはよく言ったものだ。
「てかさ、このあとプリ撮りいこ」
「いーね」
 そこで先生の話が終わった。私達も静かにする。
 うざく感じていたロンTの声も、今日で終わるのか。そう思うと寂しく感じるものだ。いや、それはないな。うざいものはうざい。

 最後のHRのあと、部活が同じだった友達やお世話になった先生達と写真を撮りに行った。友人とは部が違うため、学校の外で待ち合わせをすることにした。

 少し時間がかかりすぎたかなと思ったが、いざ外に出ると友人はまだ来ていなかった。待たせなかったことに安堵し、外にいるよとスタンプを送る。しばらく開きっぱにしていると既読がついた。すぐにきもかわいいスタンプが返ってきた。
 せっかくの卒業式の日に、スマホを触りっぱなのはちょっとあれだなと思い、画面を消し空を見る。少し、灰色になっていた。今朝見た予報で雪が降ると言っていたことを思い出す。暦じゃもう春なのに。さすが雪国。
 もし本州だったら、今頃満開の桜が見えて、上を見ても下を見ても視界に桜色が見えてとても綺麗なのだろうな。その景色を想像すると、すこし羨ましく思えた。灰色じゃない卒業式だなんて、アニメの世界みたい。
 灰色は、寂しい感じがしてあまり好きじゃない。なんというか、周りの色だけじゃなくその存在すらも消して、私を孤立させるように感じてしまう。あいつは、ひとりぼっちを加速しようとしてくる。
 つい変なことを考えてしまった。思考から目をそらそうと視界を下げる。ちょうど、胸に花を飾った生徒たちが小さな束になりながら前を通っていった。一人の人は誰もいなかった。私以外。そらしたことを後悔した。
 スマホを開き、彼らとの断絶を試みた。

 「ごめん待った!?」
 返事をしようとした瞬間、真正面から突然抱きつかれる。
「ちょい、苦しいって」
「いーじゃんいーじゃん」
 苦しいけど、少し落ち着いた。友人の手には部活の人から貰ったのか、ピンク色の花束が増えていた。友人に似合っている。
「何してたの?」
「空見てた」
「詩人かよ」
「雪降るんだって、ほら灰色」
「ほんとだ。積もるかな?」
「さすがに」
「あ待って、写真とろ」
 うぇーいといいながら、撮る。確認すると最高に可愛いかった。
「まじ最高」
「私の手にかかればお手の物よ」
 そう言いながら歩き始めた。
「てか、せっかくの卒業式なのに晴れなくて最悪」
「ウケる」
「だって葬式みたいな色じゃん!寂しいよ!」
「不謹慎だなー。いいじゃん雪!私好きだよ?」
「そーだけどさー今日くらいさー」
 最後の日くらい、青空の下で一緒に写真を撮りたかった。いや写真はいらない。あなたには、綺麗な色の下で笑っていてほしかった。
「もう会えないかもしれないじゃん」
 ついこぼれてしまう。
 珍しく、友人が黙った。何か言ってはいけなかったのかと怖くなり、顔を見る。
 驚いた顔をしていた。歩みが止まる。そのままゆっくりと口を開いた。
「……私、会いたくなったらすぐ会いに行くつもりでいたんだけど……?」
 次に私が驚く顔をした。それを見てさらに、友人が戸惑った顔をする。さらに沈黙。徐々に友人の顔が赤くなっていった。それが可笑しくて、可愛くて、つい笑ってしまった。
「なんで笑うの!」
照れ隠しのように大声を出される。
「ごめんごめん」
そっか。そうだよな。
「全く可愛いやつめ」
頭を撫でると腕を掴まれた。
「うるさい!てかお腹空いた!なんか食べてこ!奢ってね!」
 そう言ってこれまでの学校でしてきたように、当たり前のように手を繋がれた。この形がしっくりくるほど、何度も繋いだ手。
 最後の最後に、友人に。彼女に、わずかに正しくない感情を抱いてしまった。眩しくて顔が見れない。視界を下げた先にあった彼女のピンクの花束が、やけにはっきりして見えた。
 雪が、降り始めた。

3/21/2026, 2:46:24 PM