逆光
「あああ…やっぱり緊張します先輩…。」
舞台袖から見える人の山々。今からあの視線が全て自分たちに向けられると思うと、心臓を吐き出してしまいそうだ。
「弱気なこと言わない!」
「いっ、た!」
バシィッ!と先輩のキツイ一発をくらっても手の震えは止まらない。
「せ、先輩は緊張してないんですか…?」
「してるよ?今にも気絶しそうなくらいにはね〜。」
飄々とした態度で先輩は答える。普段からこんな感じだが、今日に限ってはどうしてそうも楽観的にいられるのだろうか。
「な、何さその目は。信用ないって思ってるだろ。」
「はい、すごく。」
「はぁ〜…君って素直でいい子だけど時々刺してくるよね〜…。」
やや呆れた顔でそう言うが、呆れたいのはこっちの方だ。
「ま、でもさ。」
先輩は向き直って言葉を続ける。
「観客は私たちの緊張した姿を見るためにここに来たわけじゃないんだから、それならばそのご要望に答えてやらなきゃね?」
開演のブザーが鳴り響く。「見てなって。」と言いたげな顔をして、先輩はスタスタと舞台の中心へ歩いていく。
先輩は、逆光を背負っていた。
1/24/2024, 3:12:25 PM