日見しぐれ

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ひなまつり

「おばあちゃんおばあちゃん!このお人形さんはどこに置くの?」
箱からおもむろに雛人形を取り出した私は大好きだったおばあちゃんの元へ駆け寄った。

「それは『右大臣様』だね、右大臣様はおひな様から向かって右側に座らせてあげようね」
「うだいじんさま…?」
「そうだよ、『すこし白酒 めされたか 赤いお顔の右大臣〜♪』ってね、将来どんな風におあんたを祝いしようかね?その時には私にも白酒を用意しておくれよ」
「んー、なんだかよくわからないけど、楽しみにしててね!」


「白酒か…」
外国語が並べられたハイカラな都会の喧騒の中で一際目立つビルのディスプレイに飾られた雛人形。
この時期になると無性にあの頃を思い出してしまう。

社会の波に飲まれながら早5年。
出会いなんてひとつもなかった。

「ごめんおばあちゃん…約束、果たせそうにないや」

仕事の帰りに寄ったコンビニで買った缶ビールが「ぷしゅ」と音を立てる。

「白酒じゃないけど…召された気がするよ」

3/3/2026, 11:36:42 AM