春爛漫
この地では、いつも雪が降っている。それは太古の昔に冬を使命づけられたあなたが、この地をずっとずっと彷徨っているから。
わたしはそれを知っている。
あなたが悲しいくらいバラバラになった自分の心の欠片を、世界の果てであてどなく探して回っている姿をわたしは見ている。
寒い寒いこの地で、あなたは今日も吹雪の中を背中を丸めて歩いていく。そして、いつも降り積もった雪の中でうずくまる誰かを見つけては、立ち止まる。
「君……どうしたんだい?」
「左目を、失くしてしまったの」
雪に埋もれた少女が、そう答える。
「そうか。だが、君にはまだ右目が残っている。君はまだ生きていかなくてはいけない。左目を失くして死ぬのならば、右目が残っている内は生きねばならない」
少女は頷いて、雪の幕の向こうへ消えて行く。
昨日の男の子は彼の言葉で死んでしまったから、少女が生きる道を選んだことに、わたしは嬉しくなった。
春は命の誕生、秋は命の循環、夏は命の成長、そして冬は命の死を司る。
わたしは秋の使命を受け継ぐもの。わたしにあなたの春は連れて来られない。あなたはまた、涙すら凍る冬の中を重すぎる雪を背負って歩き出す。
春を遠い彼方へ攫われてしまったあなた。
あなたの冬は、いつ明けるのかしら。
4/10/2024, 1:22:21 PM