樽沢

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《親愛なる私へ》

そんな書き出しで始まる手紙。
5日前から届くこの手紙の正体を知ったのは、昨日の事だった。

「自分からの手紙?」
「都市伝説みたいなものだよ。2月10日から17日の1週間だけ、誰かの未来と過去が交差して、手紙でやり取りが出来るようになるの。」
「やり取りができるって、具体的には?」
「具体的には分からないけど、いつの間にか手紙が届いてるんだって。で、自分も手紙を書いて置いておくといつの間にかそれが消えてて…みたいな?」

親友の話を聞いて、確かに、と思った。
確かに私に届いた手紙もいつの間にかポツリと置かれていた。消印もなく、宛先もない、真っ白なただの封筒に入って。

《親愛なる私へ
この手紙が届いているだろうか。
もし届いていたら返事をください》

2月10日。私は返事を書かなかった。

《親愛なる私へ
書いた手紙が私の部屋から消えてるから、多分届いていると思う。
もし届いてたら返事をください》

2月11日。私は返事を書かなかった。

《親愛なる私へ
未来の話とか気にならない?
私は25歳のアナタで、どんな大人になるとか、そういうの。
気になったら返事をください》

2月12日。私は返事を書かなかった。

《親愛なる私へ
未来を教えるのはズルい気がするし、それを餌に返事をもらおうとしてた私がズルい気がしました。ごめんなさい。
良ければ返事をください》

2月13日。私は返事を書かなかった。

《親愛なる私へ
今日のこっちはいい天気だよ。
体調はどう?私はめちゃくちゃ元気にしてるよ
調子良ければ返事をください》

2月14日。私は返事を書かなかった。

《親愛なる私へ
ご飯は食べてる?好き嫌いしないで沢山食べて沢山寝てる?
センセイの言うことを聞いて、いい子にしてる?
今日何食べたか教えて欲しいから返事をください》

《アナタは誰ですか?》

2月15日。私は返事を書いた。

《親愛なる私へ
お返事ありがとう!でも質問の意味が分からなかったな。
私は私だよ。
なんでそんなことを聞いたか教えて欲しいから返事をください》

《10年後。私は多分生きてないのに手紙が来るとは思えません。
アナタは誰ですか?》

2月16日。私は返事を書いた。

《親愛なる私へ
今日で最後の手紙になります。
この手紙にアナタが返事をすることは出来ないだろうから一方通行になってしまうね。
10年後、アナタは生きてます。病気は治って、みんなと楽しく学校に通って、卒業して、社会に出て、素敵な恋人も作って、楽しく幸せに過ごします。
アナタの病気は治ります。だから諦めないでください。
返事はいりません》

2月17日。最後の手紙が届いた。

《親愛なる親友へ
返事が要らないと言われましたが、返事を書きました。
ずっと私のフリをして手紙を送り続けてくれてありがとう。
辛い検査や苦しい病気で生きることを諦めていた私を元気づけるために、手紙を届けてくれたこと、本当に感謝しています。
アナタが話してくれた未来を信じて、私は今日も生きようと思います。
またいつかの未来で会いましょう》

2月17日。最期の手紙を書いた。

2/15/2024, 3:41:10 PM