お題《記憶のランタン》
クリスタルの湖に灯る月
魚もいない神秘の湖を彩るのは
記憶のランタン
「旅人が落としていった記憶が光となってて、ここ一帯は夜でも白夜のようなんだ。水底にはランタンがあって、記憶をためている、らしいけど、何のためかは専門家でもわからないそうだ。
興味があるなら一度行ってみるといい。地図も持っていくといいよ」
街道で出会った青年から教えられ
湖を目指す旅人
宛のない長い旅路だから
風吹くままに巡る
道端の草花さえもひとつの絵
今は今しかない
旅人は手帳《あいぼう》に綴る
ひとつの決まった出来事なのに
どうせ意味など持たないのに
それでも旅人は旅人だから綴る
運命《さだめ》は運命《さだめ》だから
旅人は旅人だから
木漏れ陽溶けるように輝く湖
瞳に木漏れ陽さす
旅人は水底へ
クリスタルの月のランタン
触れれば記憶が流れ込む
忘れられた遺跡を見つけた時
花通り 笑顔の花を友達と咲かせる時
リボンを竜に結ぶ少女と
約束を少女に結ぶ竜と 別れの時
輝石で走る機関車から見える蜂蜜色の街
職人が新人に輝石を語る時
そして旅人は ふたたび 明日の風に吹かれて
「………道中ご無事で」
祈りの言葉は願いの言葉
旅人は旅人を想う
自分たちから消えないものがあるとしたら
きっとそれは運命《アルカナ》だ
11/19/2025, 8:33:16 AM