#鏡の中の自分
私がにっこり笑えば、キミはいつも笑いかけてくれる。
周りの人たちは、無表情で、疲れていて、眉をひそめて怖い顔をしていた。でも、そんな彼らも私が笑えば、フッと力が抜けたように微笑んでくれた。
それが嬉しくて、私はいつも笑っていた。体調が悪い日も、泣きたいくらい辛いときも、どんなときも笑顔を忘れずに。
「大丈夫だよ」が、私の合言葉。
でも、いつからだろう。
私がにっこり笑っても、キミは笑い返してはくれなくなった。
それどころか、悲しそうな目で私を見つめていた。何か言いたげに唇を震わせて。
おかしいな。笑ってよ。笑ってほしいよ。
グッと口角を上げると、キミはさらに引き攣ったような顔になる。
「ねぇ。もう、そんな風に笑わないで」
涙が頬を伝う。
鏡に映った私は、泣いていた。
「つらいときは、つらいって言っていいんだ」
「かなしいときは、かなしいって言っていいんだ」
「いやなときは、いやだなって言っていいんだ」
そうだった。
キミにそんな顔をさせてたのは、――私だったんだね。
11/4/2023, 5:40:34 AM