氷室凛

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 アイツがなぜ委員長なんてやっているのか。なぜ部長なんてやっているのか。
 いつもシャツのボタンを大っぴらに開けてズボンから裾を出してるような、チャラチャラした見た目のアイツがなぜわざわざそんなことをやりたがったのか。

 俺たちは──いや、俺は。副委員長であり、アイツのいちばんのダチだと自負している俺は。
 そのことについてもっとよく考えるべきだった。


 あるときアイツは3日ほど学校を休んで、次に登校したときにはひどくやつれた顔をしてた。
 アイツはもともと身体が弱いから。学校を休むのも顔色が悪いのも別に珍しいことじゃあなくって、けどなんとなく俺は聞いてみた。深い意味があったわけじゃない。ただ会話の流れで、適当に、笑いながら。
 そしたらアイツも、「この3日カーテンのない部屋にいたからさぁ」なんて笑いながら言って、俺たちも「夜眩しくて寝れねーじゃん」とか、「早く買えよ」とか、「着替えるとき丸見えじゃん。あ、むしろ見せてる?」とか、まーなんも考えないでテキトーに馬鹿言って笑ってた。
 こんなのただのコミュニケーションで、じゃれあいで、単語の表面をなぞってそれに沿った球を投げ返すだけの反射ゲームだ。いちいち言葉の裏とか隠された意味とか、そんなことは考えない。俺たちはそれを会話と呼ぶ。

 けど、いまにして思えば。
 やっぱり俺は、アイツのあの発言について、もっとよく考えるべきだった。

 あのとき気づいてたら何かが変わったかなんてわからない。けど、気づかなかったからこうなった。
 もしかしたらあれは、アイツなりの精一杯のSOSだったりしたんじゃないか? それに気づいてたらこんなことにはならなかったんじゃないか?


 ちゃんと考えればわかったことだ。
 委員長も、部長も。学校に拘束される時間が長くなるからお前は進んで手を挙げたんじゃないのか?
 カーテンのない部屋って──それは、窓がないんじゃないか?
 そんなところに、お前は進んで3日もいたのか? そうじゃなくて……閉じ込められていたんじゃないのか?


 なあ、ジンゴ。
 お前は家でどういう扱いを受けていた。




出演:「サトルクエスチョン」より 福井栄(ふくい えい)
20241012.NO.77「カーテン」




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 高校に入って(俺としては)まともに学校に通うようになって、気づいた。

 俺は放課後の時間をもっと有意義に使うべきだ。

 授業が終わってすぐに帰るのはあまりにもったいない。
 誰かと遊ぶのは相手の都合もあるから毎日ってわけにはいかないだろう。バイトはたぶん許可が降りないし、そもそも俺の体調と体力を考えると仕事先に迷惑だ。
 となると、部活だか委員会だかやって、なるべく学校に留まるのがいちばんいい。

 どうせなら両方ともやるか。
 委員会は……生活指導委員ってのにしよう。生徒会を除けばいちばん忙しいらしいし、不人気っぽいから余裕で入れそうだ。
 部活の方は……とりあえず運動部はなし。お、研究会ってのもあるのか。あーでも、研究会には部室がないんだ。部室はデカいぞ、色々物置けそうだ。
 じゃあやっぱり部活動の方で、文化系で、緩いけど毎日いてもいいようなやつ……。
 意外とねぇな。漫画研究部とか文芸部とかは条件には合ってっけど、俺そういうの興味ねぇし。

 ……作るか。

 部活の作り方……。えーと、「まず研究会を発足させて、その活動実績が認められると部活動に昇格できる」? めんどくせぇな。でも部室はほしいしな。
 とりあえず研究会か。なになに、「必要人数は3人」。じゃあ俺と、キキもたぶん頼めば入ってくれるだろ。モカは……きつい。あとひとり……あ、アイツ。同じクラスの、福井ってヤツ。高校からのダチだけど、ノリいいし頼めば名前だけ貸してくれるかも。

 よし、これで方針は決まった。一旦帰るか。

 最初は遠いと思っていた家までの道のりも、慣れるとあっという間だ。

 内側用と外側用、2種類ある鍵の片方を開けて玄関をくぐる。ちなみにもう片方の鍵は持ってない。
 暗い廊下。
 静かな部屋。
 お手伝いさんが作ってくれたご飯を温めて直して食べる。
 喋り続けるテレビ。
 母さんは今日も帰らない。

 飯を喉に流し込みながら考える。
 高校ではちゃんと学校に通えてるし、授業もみんなと一緒に受けれてる。友達もできた。順調だ。
 それに明日からは研究会発足に向けてやることが色々ある。どんな研究会にするかも決めないとな。キキと福井と、3人で話し合うか。
 ──ああ、放課後が楽しみだ!



出演:「サトルクエスチョン」より 仁吾未来(じんご みらい)
20241012.NO.78「放課後」

昨日枠取るのも忘れてたのでまとめて更新

10/12/2024, 3:26:28 PM