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Original №2 『優しくしないで』

⚠️注意⚠️長文あり

〖.......modottekoi........〗

ある日、俺に届いたのは、
たった1行だけ書かれた一通の手紙
封筒にはここの宛先だけが書かれており、送り主の名前も住所も無いが、手紙の端に押された故郷の紋章が何処からこんなふざけた手紙が来たのかが分かった。

(とうとう、来てしまったなッ....)

故郷のシンボルとも言える大樹を中心に囲うリーフ
一見、国の紋章に見えないシンプルなデザインだが、これは大木の海〖樹海〗に守られた新国〖ミュルクヴィズ国〗の紋章だ。
‪帝国 アルスマグナの隣国にあり、
過去に帝国と長い間争ってきた森の民が村から街へ、
街から国へと発展して出来た新国なのだ。
街と発展した当時にミュルクヴィズの領主、いや、今は国王と称した方がいいだろう。
国王の祖先と帝国の王が長年の戦争に終止符を打つ為、互いに和平協定を申し出た。
とある約束を交わした王たちのお陰で今まで平和で居られていた。

そう、いられたのだ。

「....終わってしまったのですね。兄上」

帝国の第一皇子である〖アルフレッド〗殿下の暴走により今、ミュルクヴィズ国は帝国との協定を反古にされていた。

本当に頭のアホーな皇子だ。
初対面の時も思ったが思慮の足りない男であり、難のある性格を持っている上、自身の婚約者を蔑ろにする程貞操もない人が何故、皇太子という座に座ることが出来たのか不思議でしかない。
まぁ、文武両道であるにはあるが未来の皇帝としての才は弟の皇子にあると俺は思っている。

第二皇子 ルイス皇子はアルフレッド殿下と腹違いの兄弟であり、現在は問題を起こしたアルフレッド殿下に変わり、ミュルクヴィズ国への大使として時々、
お越しになっている。
皇太子と違い、心優しく婚約者様とも仲睦まじい姿がよく見られている。そして、ミュルクヴィズ国の王やその民たちにも敬意を払う姿勢にミュルクヴィズの王も民も感心を得ている。....次の皇帝に願うほどに。



話は変わって、、、
ミュルクヴィズ国とアルスマグナ帝国の現王たちは
年に1回に行われる親善会議にてとある約束を交わしていた。
互いの友好を深め、再び愚かに戦争を起こさない為、
両国の王族の婚姻を提案し、第二皇子ルイス皇子にミュルクヴィズ国王の姪 ピースを第2皇妃として迎え入れる事で話が進められた。
幸い、大使として幾度も来ていたルイス皇子とその婚約者様はミュルクヴィズ国の巫と呼ばれるピースと仲が良く、婚約自体も特に反対も本人たちの拒否もなく受け入れられたのだが、その婚姻に反対する皇太子と一部の者の声が上がった。
馬鹿皇太子はミュルクヴィズ国の巫であるピースの容姿を一目みて気に入ったようで、自分の即位後に側室として迎え入れようと思っていたらしい。

前々からことある事に側室に入れという手紙がきたが互いの友好と巫という立場を考えて見れば、側室では問題がある為、わざわざ〖皇妃〗という婚約者と同じ身分で嫁ぐ事に意味があるというのに、皇太子は〖側室〗に迎え入れようとしていたのだ。
勿論、両国の王はこれを却下しご丁寧にこの婚姻について説明したそうだが、皇太子の意見は変わらず、参った両国の王は皇太子にピースに近づくことを禁じ、ミュルクヴィズ国への入国を無期限で拒否された。皇太子は猛抗議したが廃嫡を盾にされ渋々引き下がったようだが、あの皇太子が黙って簡単に引き下がるはずも無く、この騒動に続く出来事が起こった。


ひと月前、お元気だったアルスマグナの皇帝が急病に倒れてしまったのだ。
王がいない今、一時的に政権が次期皇帝となるアルフレッド皇太子に移ると案の定、好き勝手のわがまま放題をして皇子やミュルクヴィズ国を困らしている。
そして、彼はこの機会を待っていたかのようにミュルクヴィズ国にピースを側室に寄越せと王命を使って手紙を出してしまった。
勿論、ミュルクヴィズ国はこれを拒否。
例え、次期皇帝だろうが、代理だろうが身内をゲスに送るような事はしなかった。
そんな頑なの態度をとられた皇太子は先人たちの長年の努力を無駄にするように宣戦布告をだしてきた。
これには流石のルイス皇子が止めに入ったが王に逆らったとして婚約者共々牢の中に監禁され、異議を唱えていた貴族たちも口をつぐんでしまった。

そんな中、選択を迫られた王たちにピースがこの婚姻を受け入れると申し出た。先人たちの長い努力を無駄にしない為、ピースは自分1人で解決するのならと皇太子の要求を呑むと王に告げた。
これには王や家族の反対があったが、ピースの意思は固く王は泣きながら膝をついてまで謝った。

『叔父さま、どうか泣かないでください。
私はこの国の為になれる事を誇りに思うのです。
限りある命を持つ私に巫の座を与えて下さった事、
私の意見を大切にして下さった事、
そして、彼等と共にいる事を許してくださった事。
私はとても幸せでしたッ....。』

『どうか、最後の願いとして、
彼等と最後のときを過ごすことをお許しください。』

『....ッ分かった。
婚礼迄の間、ピースに暇を出す事を許すッ。』

『ありがとうございます、叔父さま』

『すまないッ....ピースッ』



それが先日の話....

遂にその時がやってきた........。



《ピース・ミュルク》

新国の1つであるアドラルーマ国の十二幹部の一人としてVirgo(ウィルゴ)の座にすわる青年の名前。
その実力はとても高く、戦力や知力などオールラウンダー型の能力を持っている。
常にフードを被っている事が特徴な彼は旅をしている最中にこの国の新王に勧誘という名の誘拐に合い、色々と巻き込まれつつも最終的に王のカリスマに引かれて幹部の座に座ることとなる。

騒がしくも楽しく、仲間思いで優しい彼らとの日々に笑い合う彼は限られた時間を全て王に捧げ、いつの日か故郷との同盟を結べられたらと願うほど、《彼等》に入れ込んでいた。

いつかはこの場所を離れなければならないと知っていたはずなのに、そう願ってしまったのだ。




もう、お気づきだろう。。。
彼こそ、ミュルクヴィズ国の巫ピースである。



彼の元に届いた手紙は婚礼の準備が整ったという知らせであり、また、彼らの元を去るという現実でもあった。

「....終わってしまったのですね。兄上」

ピースは手紙に握り締め、苦しげに言った。
そして、全てを諦めたような表情をすると机の鍵付きの引き出しを開けると〖退職届〗と書かれた紙を取りだし、最後の欄に署名をする。

(もう、後戻りは出来ないッ....)

紙を机のすぐ目につくように中央に置くと、
予め用意していた荷物を手に持ち、部屋を後にする。

ここで得たものも贈られたものも全て置いていく。
持っていくのは少しの服と故郷へ向かう為の路銀だけ

キビキビと少し早足で進んでいく王と仲間の影が見え始める。いつもと変わらない光景につい足を止めてしまうが、溢れ出る何かを押し殺しそのまま彼らへと進んでいく。

『お!ピースか!
里帰り、気をつけていけよ!!』

『少し寂しいですが、楽しんでくださいね。』

『早く帰ってこいよ〜、ピース泣』

『道中、気を付けてな』

『お土産、ヨロヨロ〜〜』

『お土産は甘いものを所望するアル』

『俺、ご飯系で宜しゅうな!』

『ピースセンパーイ、行ってらっしゃい👋』

『怪我とか、病気とか、色々、気を付けてね💦』

『・・・・・(気をつけて)』

『少しは静かにせんか!!?』


各自の言葉にピースは微笑んで頷きながら、
心の中でもう戻らない事を謝り続けた。
最後に彼の前に立つ王と向き合い、王はピースの頭をフード越しに撫でながら、いつもとは違う優しい顔つきで言った。

『気を付けて帰ってこいよ。ピース・ミュルク。』

『ッ........。
はいッ、善処しますよ。』

『そこは分かったと言って欲しいんだがなw』

『............』


あぁッ、我が王よ。
どうかあなたの元を勝手に離れる事をお許し下さい。
あなた様に忠誠を誓えないことを、貴方たちを裏切るようなことをしてしまい、ごめんなさいッ....。


『『行ってらっしゃい、ピース』』

あぁッ、、、、

『....行ってきますッ、皆さん 。
どうか、お元気で』

わたしに優しくしないでッ....。


『........サヨウナラ(ボソッ』


ピースは荷物を後ろに彼等とお別れを済ませた後、
そこから逃げるように馬を走らせた。
目元から暑い涙が頬を伝うも彼、いや、彼女の目には真っ直ぐと前を見据えていた。
彼女は一度も振り替えることなく故郷へと向かった。


彼女の覚悟は決まった。


彼らが置き手紙ならぬ退職届を見つけたのは、
その後のはなしだった。





どうか、我らの王よ。
貴方の栄光と無事を願います。

・━━━ ℯ𝓃𝒹 ━━━・



5/11/2024, 3:41:23 PM