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「澄んだ瞳と聞いて、君は何を思う。」
教授が僕にそう問いかけた。

「人の瞳でしょうか。何かを頑張った人とか、慈愛の視線を思いつきました。」

「…そうだったな。」

教授は物静かで、少し会話が歪な人だったから話はそこで途切れてしまった。僕には教授の質問の意図が読めなかったけど、きっと凡人にはわからない何かを深く考えているのだろう、そんなことは察せた。


次の日も僕は研究室へと向かった。
「頼まれていた資料、ここにおいておきますね。」

「……」

カタカタとキーボードを打つ音がする。
昼過ぎ、閉めているはずの窓から春の妙な暖かさがこちらを覗き見をしている。少しうざったい。

「教授、もう一年になりますね。」







僕が死んでから。







教授は生物の細胞研究の最先端の研究をしている人だった。

僕はその助手として努めながら自身の研究も進めるという、学生ならではの忙がしさをその身で感じつつ、日々を過ごしていた。

僕の研究は教授の研究とは正反対で真っ向から対立するような意見の証明だった。世間一般に広く認められた教授の論理を覆そうとする異端児の僕にも手を伸ばして不器用ながら支えてくれたのは他ならない、教授だった。

「君の研究が証明され、世に出れば今以上にたくさんの人が救われるだろう。」

そういい、自分の人脈をこれでもかとふんだんに使って支援してくれる人を探してくれた。


教授のおかけでようやく研究が軌道に乗ってきたとき、俺は刺された。

犯人は同じ研究室にいた奴だった。
友人だった。忙しい研究の合間に飲みに行ったり、互いの研究内容に指摘し合ったり、夜ふかししながらビール片手に論文を読み明かした夜もあった。次の日は教授の授業サポートなのに、結局一睡もせずに遅刻しそうになりながら会場に走った。教授は不愉快そうに片眉を上げていつもの無表情に戻ったあと、ため息を付いた。どうやらお咎めはないようだ。




ふと現実に戻された。



お前はたまに変に怯えた顔をする。
その瞳は何を見つめているかわからないほどに濁っていた。

「…死んで、幽霊になって。
 それでもお前は…なんで笑うんだ。」

「幽霊は驚かすものじゃないのか?」

「いや、違う。違うよ。違うんだ。本当にすまなかった……殺すつもりはなかったんだ…ごめんな…ごめんなさい。」










「またか。そんなに思い詰めるのならばやらなければいいことを。」

そう言い、警官の服装をした男がこちらに近づいてくる。






一瞬誰のかわからなかった。

警官バッチには澄んだ瞳をした気弱そうな男がこちらを見つめていた。

7/30/2023, 10:50:20 AM