NISHIMOTO

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 雲がやってくる。今からお前たちを覆ってしまうぞと無音で迫りくる。夏の山、すでに多くを青く沈めて、まだまだだと私を覆いに駆けてくる。
 車窓からスマホで撮った、たかだか一枚の写真にその想いが乗り移るとは思えない。まだ高い日差しまで届かず、しかしいまから、いまにも、襲いくる。右の端から左の端まで厚い雲。奥は鈍色で浮いた先は陽光に白く透けた、何度も山脈を覆う旅人の雲。
 すべてが終わる日にこそふさわしい。
 鮮やかな山の色と空の色を通り過ぎて雲の恩恵が降るとき、私のすべてが終わる。雨が上がったとき私たちは別の場所に着いて、そこで新しく生活が生まれる。
 最後に、もう終わりにしようと泣いた親の顔を思い出した。
 はやく終わらせにきてほしい。はやく私を覆い尽くして恩恵で流し尽くして新生活を祝福してほしい。
 どれだけ願っても夏の雲は豊かに静かに過ぎゆくばかりだった。

7/16/2023, 8:04:25 AM