お題『雪』
滅多に雪が降らない地域に住んでいるが、年に数回、数えられるくらいの回数程度なら雪が散らついているのを見かける。
珍しく雪がうっすら積もった夜の入り口に、私は家路を急いでいた。
早く帰りたい。
家に着いて早く温まりたいということよりも、好きな動画配信者の生配信が19時からあることの方が大きかった。
そんな私の気持ちを知らない同僚から一通のLINE。急いでいるのに律儀にチェックできたのは、これ以上急ぎようがないくらい積雪の帰宅ラッシュに飲まれているバスの車内だったから。
今日はシフトじゃない彼からのメッセージを開くと、
『昨日言うの忘れてた! 今年もよろしく!!』
そのひと言にイラついていた心が少し落ち着いた。
それから、もう一通。
『今夜は雪で冷えます。お身体を冷やしませんように』
彼は不思議な奴だ。
野暮ったい眼鏡にヨレヨレのスーツ、趣味はゲームとネットサーフィンらしい。
私が熱を上げているあの動画配信者と真逆だというのに、なんとなく目が離せない。
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ああ、19時からの生配信まで時間がないぞ! あくまで予定とはいえ、待ってくれている視聴者を裏切りたくないのでなるべく時間通りに。
鍋の用意をしながら頭の中で配信スケジュールを組み立てる。
年始一発目だ、ああなんて言おう……無難に、『あけましておめでとうございます。今年もこのチャンネルをよろしくお願いします』かなぁ……あっ!!
俺は急いでスマホを手に取り、LINEを立ち上げた。
『……お身体を冷やしませんように』……っと。
同じ職場の、少しおっとりした同期のことがちょっとどころではなく気になっている。
彼女は趣味がネットの動画配信を見ることだと言っていた。
俺だって、俺だって手元オンリーの料理動画だけど、動画配信してるのに!!
すると、彼女から返事がきた。
『雪のせいかもと思うけど、今夜はすっごく冷えるね。お互いあたたかくして過ごしましょう』
これは、どっちだ? 脈アリ? ナシ?
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『お互いあたたかくして過ごしましょう』
……送信、っと。
ふと車外に目を向けると、先ほどよりもずっと激しく粉雪が舞っている。
ああ、今日の配信はお鍋って告知だった。あの人が作るごはん、いつも美味しそうなんだよねぇ……。
私も帰ったらひとり鍋にしようと心に決めた。一緒に食べてる雰囲気を味わうんだ。
ノロノロ運転しかできないバスに内心焦りながら、冷蔵庫にあるものを数えた。
1/7/2026, 10:38:18 AM