死にたい少年と、その相棒

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  /言葉にできない

「痛い! 痛い!」
掴まれ、引っ張られる髪が抜ける嫌な音が頭皮から聞こえる。どれだけ叫んでもその手は離されず、部屋の端にまで来ると乱暴に壁際へと投げ出された。
あまり見ない彼の怒りように、今回はやり過ぎたかと思った。どちらかと言えば今まで溜めていたものが爆発したと言った方が正しそうだった。
「ンなに死にてぇなら今すぐ殺してやるよ」
ゆらり、と彼の目が光った——そう見えたのは実際は彼が愛用するナイフで、躊躇いもなく勢い良く振り下ろされた。

ナイフが、寸分の狂いもなく僕を貫いた。
正しく言えば僕の右手を貫いた。

良く手入れされたそれは、僕の手を床に縫い止めている。
血が溢れているのに痛すぎて感覚が無い。

見上げれば冷たい青い目が僕を見下ろしていた。
何に対してか分からないけど、じんわりと目元が潤んだ。

「……いたいよ」
そう、小さく呟いたら視界を揺らしていたものが溢れた。
それを見た彼が、やっといつもの暖かさを持った目に戻した。
「溜め込む前に言えって、いつも言ってんだろ」
「……それにしたって、もっと別のやり方があるでしょ……」
「真っ当な道歩いたことなんかねぇだろ。これに懲りたら次からちゃんと吐き出せ」
そう言って、ナイフも抜かずにどこかへ行ってしまった。数分で戻ってきた彼の手には救急箱があって、さっき刺したその手で、僕の体の包帯の数を増やしていく。

未だ吐き出せないでいる感情を言葉にできないまま、僕はその手をじっと眺め続けた。

4/11/2023, 11:41:18 AM