秋埜

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 夢の中で私は砂漠の街に住む女の子だった。
 日々は眩く輝く太陽に支配されている。街はそれなりに豊かで上下水道も整備されていたのだけど、それでも雨が降れば皆沸き立った。
 私はしゅっとした細身の猫を抱いて、砂にしみこむ雨粒を見つめる。砂漠は不毛の地ではない。わずかな水分を吸い上げて、植物は生い育つ。雨に濡れた小さな花々は、きらきらと輝いて硝子細工のようだ。猫は私の腕から逃れて、砂の上をすばしこっく駆け回る蜥蜴を追いかけ始めた。
 やがて短い雨が上がると、空はいつにも増して突き抜けるように青く、雨粒が太陽の光を乱反射させた。
 夢から覚めてベッドの上で起き上がった時、まだ眩しさに痛む目から涙が一粒落ちた。


 夢の中で私は硝子ドームの都市に住んでいた。
 ドームの厚い硝子の向こう側は、伝い流れる雨が不思議な模様を描いている。はるか昔に壊れた機械が降らせる雨は、どこかで循環し続けて降りやむことはない。
夢の中の私は写真や映像でしか太陽を見たことがない。けれど私は雨が嫌いではなかった。きれいだから。
 都市は清潔で整然として、人の作り出したあらゆる美しいものが並んでいた。私はそれらを眺めることが好きで、音楽が好きで、本を読むことが好きで、いつか自分も何かを作り出すことを夢見ていた。
 朝陽が眩く射し込んで、私は目を覚ます。夢の名残か、雨の雫がひとすじ頬を伝い落ちた。
 

5/26/2023, 3:41:21 AM