お題『すれ違う瞳』
タイトル『突然の引っ越し』
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まとめは
【カクヨム】か【note】
『わんわんとさっちゃん』
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単身赴任先に帰る都合で、浩介さんはひとり1日前倒しで帰っていた。
私は皐月を連れてネモフィラの丘から帰ってきて。そして皐月と話し合って、白石さんとコハナちゃんにそのままお土産を渡しにいくことにしている。
皐月は今にもスキップを踏みそうなくらい浮かれていて、そんな皐月を見ながら、
「またコケても知らないからね」
と言った私も少し浮ついていた。だって、皐月とコハナちゃんのために最高のプレゼントを用意できたんだもの。
浮かれ親娘と一台のワゴン車がすれ違おうとした。その車を見た皐月が、
「コハナちゃんだ!」
と声を上げた。
「コハナちゃん! どこにいくの?」
すれ違うとき、私とはっきり目が合った。
それは確かにコハナちゃんだということが私にも分かった。すごく悲しそうな瞳をしていて……まさか!
「皐月、おんぶしてあげる! 白石さんの家に急ぐわよ!!」
皐月は頷くと私の背中に回り込み、肩に腕を回してきた。
皐月のお誕生日のときから抱いていた、白石さんへの違和感が何かの勘違いであってほしかった。だってそうでしょ? 万が一にでもこのままコハナちゃんが帰ってこないとか、そんなことがあれば、皐月は落ち込むに決まってる!
「白石さん!」
私が玄関に転がり込むと、奥から真二くんが赤い目を擦りながら出てきた。
「あ……さっちゃんと七海さん……」
「さっき、そこで車に乗ったコハナちゃんとすれ違ったんだけど!?」
半ば叫ぶように放った私の言葉に、真二くんが鼻声になる。
「コハナ、もううちには帰ってこないんです」
「……え?」
「コハナは引退犬ボランティアさんの家に行って、もう、この家には……」
そこまで言って絶句した真二くんに、私もまた絶句した。
「ねぇねぇ、おさんぽさぶりーだー? コハナちゃん、どうかしたの?」
沈黙の中、事態が分からない皐月の声だけが玄関に響いた。
5/4/2025, 10:51:59 AM