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お題『君と一緒に』

 珍しく七海がソファに横になっていた。ブランケットを肩までかけ、眼鏡も外している。その様子を見て、猪野は眉を寄せた。
「七海サン、やっぱり無理してたでしょ」
「……少し、疲れが出ただけです。心配するほどでは」
「それ、全然説得力ないですからね?」
 猪野はそう言いながら、テーブルに置いたマグカップを七海の手元へ寄せた。
「温かいですよ。ちゃんと飲んでください」
「ありがとうございます。……でも、君に世話を焼かれるのことに、まだ慣れません。私のほうが年上なのに」
 そう言いつつも、七海は素直にカップを受け取る。猪野はその様子に少しだけ安心したように笑った。
「年上とか関係ないです。七海サンが俺の恋人なんですから」
 真っ直ぐな言葉に七海は一瞬目を伏せる。弱っている時ほど、その言葉は胸に深く染みた。
「……私は、人に頼るのがあまり得意ではありません」
「知ってます。でも、俺のことは頼ってほしい」
 猪野はそう言ってソファの横に腰を下ろし、七海の手を包み込むように握る。大きくて温かい手。
「一緒にいるって、そういうことでしょ?」
 七海は小さく息を吐き、やがて観念したように微笑んだ。
「本当に……君には敵いませんね」
「それ、褒め言葉として受け取りますね」
 くすっと笑う猪野に、七海もつられて表情を緩めた。静かな部屋で、二人分の呼吸が重なる。

 ――君と一緒にいると、自分の弱ささえ受け入れられる。

 七海はそう感じながら、恋人の手を握り返した。支え合うように、寄り添いながら過ごす時間が何よりも愛おしい。

1/6/2026, 3:27:41 PM