しずく

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「先輩が考えていること、わかんな...」
 一人言のつもりだった。そしてそれは“つもり”で終わった。
「あ、なつめくんじゃん。やっほ」
「...うわ」
 さいあく。ぜったい聞かれてた。
 ...まあ、先輩を待っていなかったと言ったら嘘になるから、たぶん俺も先輩に聞かれる可能性は考えていたのだろう。その上で俺は一人言を放ったのかもしれない。
 最近は自分が考えることすらわからなくなっていた。解けそうにない矛盾の糸が絡み合ったまま答えがでないでいる。...うそ、ほんとは心のどこかで分かっているのに明確に答えを出すのが怖いだけ。
「なーつめくん、テストできた?」
 当たり前のように俺のとなりの席を陣取った先輩を一瞥する。ぱちっと視線がぶつかって冷静を装い、視線を下げる。教室には俺と先輩以外いなかった。 
「まあまあです。先輩が教えてくれたとこピンポイントで出て感心通り越して不正疑いかけました」
「え、まじ?出たんだ。よかったぁ、あんな教えといてひとつもでなかったらどうしよって思ったりしてたんだよね実は」
 ふわりとはにかんだ先輩に心臓が脈を吐いた。
 ...あ、いま先輩の心に触れられてる。作られた先輩じゃない。ふいに思った。


─心と心─ #138
(推し作家様が新作公開してくださっていた…!さっきまで生きる気力が奈落だったのが嘘みたいだ)

12/12/2024, 2:11:40 PM