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「点呼ー」

酷く間延びした、それでいて通る声が響く。太陽の光も一切届かず、人工的な光しか見えないここは、冷たく苦しい。点呼と言われる度、ここからは出られないのだと言われているようで悔しい。

「13番」

それが僕の名前。番号だけでラベリングされた僕たちは、人間という種族としか見られていない。牢獄のように、酷く陰湿な空気がここを包んで精神状態も悪い。僕の隣のヤツはいつの間にか気が狂って、誰かに連れて行かれた。飼い殺される前に出たい。もう一度空が見たい。太陽に手をかざすと血潮が透けて、寒そうに見えてとても温かい青色。自由じゃなくてもいいから見たい。

「作業始め。」

機械的な動作で作業は始まる。曰く、戦争が地上で起こっているらしい。それ故に、僕たちは閉じ込められ管理される。命の保証はされても自由ではないのだ。毎日同じ時間に起き、作業をし寝る。それがこの世界だった。はやく、はやく地上に行きたい。戦争に駆り出されたっていい。ただ、あの青を見れずに死ぬのは惜しい。最後の瞬間にあの青が見たい。それだけの為に生きている。

お題:空恋

7/6/2025, 10:13:27 AM