小音葉

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飽きるほど通った坂道
はみ出した街路樹、顔のない通行人
視界の端で点滅する信号機
落としたノートを拾ってくれた、本屋の店員
向かいのカフェから香る、ほろ苦い珈琲の誘惑
確かに息を切らして紡いだ結晶
あんなに鮮明だったはずの日々は今や遠く
画面越しの捕食、大自然の作る劇場を眺めるように
ただ白い水平線を漂っている

耳障りな音を立てて、視界が揺れる
ざらついた塵芥に飲まれて消えてしまう
息が出来ない
苦しくて、押し潰される
背負った重みで骨が軋む
誰が壊したか分からない世界に埋もれて
終わるのか、いつか気紛れに望んだように
何も残せずに、守れずに、温い夢を振り払い
息も絶え絶えに紡いできた私なのに

繰り返し蹴飛ばした石ころ、そして後悔
苛立ちのまま千切って捨てた、名も知らぬ枝葉と淡い恋
射抜いて喜び、倒れて安堵した仮初の未来
鉛のように重い腕を引き摺って
砕けた心は継ぎ接ぎに、地面を擦った傷だらけの体で
私はここまで歩いてきたんだ

優しい右手と折られたページを見下ろす
そうすることしか出来なかったけれど
最後、あなたを取り戻す
汚れた左手で、握り返せなくて良いから
いつか春風の駆け抜ける商店街で思い出して
一瞬だけ交わった二人の運命
超えるものなどきっとないぐらい美しかった青空の帷を

(風景)

4/12/2025, 10:36:16 AM