NoName

Open App

2023/1/19
閉ざされた日記の中身はいたって平凡だった。しかしこの日記の持ち主の人となりは平凡なのかいまいち判断できない。日付、天気、その日食べた物、予定等。ほぼ毎日書いてあるが持ち主の感想は全く書かれていない。何のおかしみもない。日記と言うよりは備忘録に近い気がする。

ちなみに

私は今その日記の中にいる。そして先客であった紙魚が案内をしてくれているのだが、「いやぁ、結構いるんですよ。ここに迷い込む人って。」「はぁ。」「でね、いつも出口まで案内役を買って出るわけでして」「はぁ。」「まぁ、楽しんでいって下さいよ」「はぁ。(アトラクション感覚?)」この紙魚がよく喋るのだ。矢継ぎ早に話すので相槌を打つぐらいしか出来ない。日記の持ち主の残像を横目にページを進んでいく。「字が…綺麗ですね。」「あ!人間の方も分かってくれますか!?」「はい。」「この日記の中身が淡泊すぎて味はいまいちなんですが見た目が頗る良くてですね」紙魚の感性に触れたのか息継ぎなしでまくし立てられた。「字に癖があり過ぎてもなさ過ぎても…」「ええ。」「すみません。熱くなりすぎました。」若干引き気味の私に気が付いたのか我に返ってくれた。「ああ、あれが出口です。」「?」出口はハガキであった。栞がわりだったのか、単に投函を保留にしていただけかもしれない。日記の字よりもややかしこまった感じがする。「ハガキ?」「そうです。宛先が書いてあるので道しるべになってくれるでしょう。」ここで案内は終わりとばかりに紙魚は身をひるがえして戻っていった。

1/19/2023, 9:09:13 AM