"夢じゃない"
空から舞い落ちる灰が、雪のようだった。
踏み出した足が、さくり、と音を立てて僅かに地面に沈み込む。
黒と白に覆われた地の下で、知らずに踏み潰したものは何だったのだろう。
踏み出す度に、靴底ひとつ分の誰かの大切な何かが塵になって消えていく。
きっと、救いはない。
赤く、黒く、そして白く。
燃えて、焼け落ちた光景は、夢なんかじゃない。
ひどく狭いこの現実という器の底の底には、墓場によく似た安寧だけが揺蕩っている。
雲の隙間から僅かに漏れる陽光に輝く灰は、まるで雪のようで。
無数の呻き声が反響する地獄の底で、ただ、灰の降る空を見上げていた。
8/8/2025, 3:19:34 PM