Nakeyanake

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風に乗るもの。たんぽぽの綿毛、虫や鳥の羽、あるいは空想や想像。それらは軽やかで、確かな足場を持たず、少しの力で容易に壊れてしまう「脆さ」を孕んでいる。

「空に終点はあるのかしら」という歌を思い出す。最後には「あの人と飛んで行きたい」と願う、妄想に近い独り言のような歌だ。ふと思いついた願いを呟くような軽やかな旋律。けれどその裏には、どこか突き放したような空虚さが漂っていた。

本日の天気は曇り時々雨。風は弱く、植物の種が旅をするにはあいにくの条件だ。
私が「それ」を見たのは、今日のような重たい空の下だった。
道の真ん中に、何かが落ちていた。
近づいてみると、それは小さな「ひとがた」だった。誰かが落とした人形だろうと思い、道端へ避けてやろうと指先ですくい上げる。すると、予想に反してそれは仄かに温かかった。
よくよく見れば、それは半透明の薄い膜に包まれた、掌に収まるほど小さな生き物だった。
呼吸に合わせて、背中の透き通った羽が微かに震えている。雨に打たれたせいか、その命は今にも消え入りそうなほど淡い。
私がそっと体温を分かつように包み込むと、その「ひとがた」はゆっくりと瞼を持ち上げた。そこには意志があるのか、あるいはただの反射なのか。私を一瞥すると、羽を一度だけ羽ばたかせた。
その瞬間、止まっていたはずの風が不意に吹き抜けた。
音はしなかった。それでも、それは弱々しい風を器用に捕まえ、重たい曇り空の向こうへとふわりと浮き上がった。
歌の中の「わたし」のように、空の終点を目指しているのだろうか。
私の手の中に残ったのは、消えかけたわずかな温もりと、真っ白なたんぽぽの綿毛が一つだけだった。

4/30/2026, 11:03:52 AM