かたいなか

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「4月14日のお題が『神様へ』だったわ」
なんとなく、もう1回くらいは神様系のお題来そうな気が、しないでもないわな。某所在住物書きは今日もぽつり呟き、相変わらず途方に暮れている。
己の執筆スタイルがエモ系スピリチュアル系の題目と微妙に、至極微妙に相性が悪いのだ。

「まぁ、日本にはいろんな神様がいるからな。赤い隈取の白狼とか、お客様は神様系神様とか、神絵師神文豪とか、御神木御神体もギリセーフか?」
東京都立川在住の「あのお二人」は、バチクソ厳密には「『神』様」じゃないんだっけ?物書きは不勉強ゆえに仏教とキリスト教の根本が分からなくなり、スマホでまず釈迦を調べ始めた。

――――――

そういえば神道では、迷惑かけたり悪いことしたりした「神様」が、懲らしめられ、やっつけられたりしていますね。という小ネタは置いといて、「神様」をお題に、物書きがこんなおはなしを閃きました。

都内某所、某稲荷神社には、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で暮らしており、
その神社の敷地には、とてもとても大きな1本のヒノキが、御神木として生えておりました。
このヒノキはとても不思議なヒノキで、自分からは花粉をちっとも出さず、敷地内のどんな花粉にも悪さをさせない、善いヒノキでした。
花粉知らずな実らずのヒノキは、神社に来るものを見守り続け、いろんなことを知っておりました。

ある時ヒノキは稲荷神社に、雪国出身の常連参拝客が来るのを見つけました。
常連さんが神社の花を愛でて、美しい写真を撮って、少しゴミ拾いなんかもしていると、
神社に住む子狐が跳び出して、尻尾をぶんぶん振り叩き、常連さんの鼻をベロンベロン舐め回しました。
ヒノキは常連さんの過去を知っていました。
常連さんは去年の今頃、数年前縁切った筈の初恋さんが粘着して執着してきて、大変だったのでした。
去年の7月バッタリ会って、追っかけ回され疲れ果てて、11月に再度縁切り、今年の5月25日ようやく完全決着の大団円。
常連さんがたまにゴミ拾いもするのは、自分の心を傷つけ魂を蝕んだ初恋さんとのトラブル解消を見守り、力添えしてくれた神社への、お礼でもありました。

またある時ヒノキは稲荷神社に、お年をお召しのおじいさんが来るのを見つけました。
神社のひとに許可を貰って、お礼に季節の野菜をどっさり渡して、花畑の花を仏花用に少し切って。
「死んだばあさんが、ここの花大好きだったんだ」と、嫁さんの自慢話を始めました。
ヒノキはおじいさんの現在を知っていました。
おじいさんの隣で今まさに、おじいさんの目にはちっとも見えないけれど、嫁さんが顔も耳もまっかっかにして、小さくなって居るのでした。
「世界で一番綺麗だった」、「一番料理が美味かった」と涙を浮かべて話すおじいさんに、『もうやめて照れちゃう』と、でもとっても嬉しそうでした。

それからある時ヒノキは稲荷神社で、人間の姿をした花の亡霊が星空を見上げるのを見つけました。
ヒノキは亡霊の未来も知っていました。
この亡霊はその日の深夜、その亡霊を別の人と見間違えた参拝客に絡まれて、ちょっとダベって、
最終的に話がサッパリ噛み合わないので、翌日「実は昨晩神社でこんなことがあってさ」と、朝の雑談のネタになってしまうのでした。
しゃーないのです。だって別人なのです。そもそもそのとき参拝客は、チゥハイなど数本キメて、ほろよい気分の散歩中なのです。

人の過去と現在、涙と照れと笑顔、それからちょっと不思議な未来。化け狐住まう稲荷神社の御神木は、実らずのヒノキは、それらをじっと見届けて、
そのいずれも、ヒノキだけが知っているのでした。
おしまい、おしまい。

7/5/2024, 3:23:28 AM